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『スーホの白い馬』は本当の話?実話なのか|原作や舞台となった国も解説

『スーホの白い馬』は本当の話?実話なのか|原作や舞台となった国も解説 古典名著

『スーホの白い馬』は本当にあった話なのか?
「実話がもと?」「舞台は中国?モンゴル?」と疑問に思う人も多いでしょうが……

結論から言うと、『スーホの白い馬』は実話ではありません。

しかし元となったモンゴルの伝承は存在します。

『スーホの白い馬』が生まれた経緯

  1. 大元はモンゴルの民話
  2. それが中国で「馬頭琴」という物語に作り直される(再編成)
  3. それが日本で「スーホの白い馬」という物語に語り直される(再話)

これだけ聞くと「なんで改変するのか?」という疑問が生まれることでしょう。

それも含めて、ここからもっと詳しく『スーホの白い馬』に関する

  • 原作民話や舞台
  • 時代背景と物語改変理由

を解説していきます。

舞台となった国はモンゴル

チャハル草原イメージ

まず、『スーホの白い馬』の舞台はモンゴルのチャハル草原です。

教科書では「中国の北の方、モンゴルには……」と始まるため、中国の物語と思われることがありますが……

中国には「うちモンゴル自治区」という、モンゴル民族が多く暮らす地域があります。

そして昔は今ほど「モンゴル国」と「内モンゴル自治区」の国境意識がハッキリしていなかったため……

『スーホの白い馬』の舞台は、この「内モンゴル自治区」と「モンゴル国」を合わせた「モンゴル文化圏」と考えられます。

地図。
モンゴル国(外モンゴル)と内モンゴル(中国)の位置、チャハル草原の位置が描かれている。
チャハル草原は現在の内モンゴル自治区中部にある。その南部に中国本土。

実際、遊牧生活や馬の長距離競走・馬頭琴など、物語に登場する文化はモンゴルの伝統文化が土台になっています。

そしてモンゴルで昔から語り継がれてきた「複数の民話」をもとに創作された可能性が高いのが、

中国語版『馬頭琴』です。

馬頭琴の起源伝説『フフー・ナムジル』

翼を持つ不思議な馬ジョノン・ハル

「複数の民話」と言いましたが、馬頭琴の起源として一番有名なのが『フフー・ナムジル』という話です。

あらすじ▼

昔、フフー・ナムジルという青年が天女と恋に落ちました。

しかし兵役が終わり、年老いた母親のもとへ帰ることを決意したフフー・ナムジル。
別れを悲しんだ天女は、翼を持つ不思議な馬ジョノン・ハルを贈りました。

フフー・ナムジルは毎晩その馬に乗って空を飛び、遠く離れた天女に会いにいきました。

しかし彼に恋をしていた別の女性が嫉妬し、ジョノン・ハルの翼を切り落としてしまいます。
翼を失った馬は命を落とし、フフー・ナムジルは最愛の馬と恋人の両方を失いました。

深い悲しみに暮れた彼は、馬の頭をかたどり、皮や尾毛を使って楽器を作ります。
そしてその楽器を弾きながら、愛馬との思い出や恋人への想いを歌いました。

この楽器が馬頭琴の始まりになったと伝えられています。

「年老いた母親のもとに」「馬が傷つけられる」「そこから楽器を」は同じですが、恋愛色が強い分、かなりイメージが違いますね。

ここに他の民話が掛け合わされ『馬頭琴』になった、ということでしょう。

いつの話?時代設定はある?

現在のモンゴル都市部イメージ
現在のモンゴル都市部イメージ

昔から語り継がれてきた民話をもとにした物語のため、「〇〇年ごろの出来事」と断定できる時代設定はありません。

ただし王様や殿様が登場し、人々が広い草原で馬や羊を育てながら暮らしていることから、昔のモンゴルをイメージした物語であることは確かです。

現在のモンゴルには、高層ビルが立ち並ぶ首都・ウランバートルがあり、

多くの人が車やスマホを使って生活しています。

『スーホの白い馬』で描かれているのはこのような現代の都市ではなく、人々が遊牧を中心に暮らしていた頃のモンゴルの風景です。

原作は中国語版『馬頭琴』でバッドエンド

憎しみが乗る馬頭琴の音色

『スーホの白い馬』の直接的な原作は、中国語で書かれた『馬頭琴』という物語です。

(日本で再話した人物『大塚勇三』さんは参考文献を明確には覚えていませんでしたが、研究では1958年刊『中国民間故事選』に収録された『馬頭琴』を元にした可能性が高いとされています)

『馬頭琴』と『スーホの白い馬』は物語の流れがほぼ同じですが、

『スーホの白い馬』では子ども向けに読みやすくなるよう、文章や表現が書き換えられています。

例えば……

  • 日本の子供が理解できるように「チャハル草原」という地名を「広い草原」という言い方でとっつきやすく。
  • 他にも難しい語句を理解しやすいように変更。
  • 物語としてドラマチックに、感動的になるように書き換えられている。

特にラストの読み味はかなり違います。

中国語版『馬頭琴』では、

「馬頭琴を弾く度に、スーホの中に殿様への憎しみがよみがえる」

とされているのに対し、日本版では

「白馬をころされたくやしさや、白馬にのって草原をかけ回った楽しさを思い出しました」

と、恨みだけではなく救いのある内容になっているのです。

これは大きな違いですね。

『馬頭琴』はプロパガンダ?

貧しい牧童・スーホと、権力を持つ殿様の対立

プロパガンダとは
国や政治団体が、自分たちの考え方を多くの人に広めるために、映画や本、新聞、学校教育などを利用すること。

近年一部の研究では、中国語版『馬頭琴』には1950年代の中国で広められていた社会主義思想が反映されていると指摘されています。

社会主義:国や社会全体で財産や利益を管理・分配し、格差を小さくしようとする考え方。
資本主義:個人や企業が自由に商売をし、競争によって利益を得る仕組み。

つまり元の民話から、「貧しい人が悪い支配者に立ち向かう物語」として作り直されたのではないか?ということです。

確かに中国語版では

  • 貧しい牧童ぼくどう・スーホ
  • 権力を持つ殿様

の対立が強調され、物語の最後には「殿様への憎しみ」だけが残っていますね。

そして先述したように、このあたりは日本版『スーホの白い馬』で修正されています。

政治的要素は薄められ、子供向けの感動する友情物語が主軸になるように書き換えられているのです。

スーホという名前はモンゴル語ではない?

『スーホの白い馬』の主人公の名前が、モンゴル語の「スフ」から中国語の「蘇和(スーホ)」を経て、日本では「スーホ」と呼ばれるようになった流れを示した図解

ちなみに、主人公の名前「スーホ」は中国語の読み方だそうです。

正しいモンゴル人の名前としては、本来「スフ(Sükh)」となるはずなのですが……

中国語版では主人公を「蘇和」と表記しており、この読み方が「スーホ」なのだそうです。

これも、『スーホの白い馬』が中国語版をもとに再話されたことを示す根拠の一つとされています。

『馬頭琴』はモンゴル文化が正確ではない

モンゴル国旗

中国語版『馬頭琴』は、「モンゴル文化が実情とは異なる」という指摘もあります。

当時のモンゴルに詳しい人からすると、違和感を覚える内容が多いということです。

異なる点モンゴル文化
白馬を矢で射殺する馬は特別な存在であり、権力者でも矢で殺すことは考えにくい。
逃げた馬は追えば捕まえられる可能性のほうが高い。
暗くなるまで羊を放牧する羊は日没前に囲いへ戻すのが一般的。
白馬が一頭で狼と戦う羊を守る役目は犬が担うはず。
競馬の優勝者が殿様の娘と結婚するモンゴルの長距離競馬は子どもが騎手を務めることが多く、この設定は実情と合わないとされる。
白馬の手当て矢を抜くだけではなく、傷口を焼いて止血・消毒するのが一般的とされる。
競馬を春に開催するモンゴルの長距離競馬は夏祭り「ナーダム」で行われるのが一般的。
春は忙しいからやらないと思われる。
白馬の死因現地では「窒息や病気などで死んだ」という伝承もあり、
矢で射殺される描写は後から加えられた可能性があると指摘されている。

まとめ

モンゴルの口承(伝承)
モンゴルの遊牧民の間で語り継がれてきた話
↓
中国語版「馬頭琴」
1950年代に中国で再構成・創作
階級闘争の要素
↓
大塚勇三による再話「スーホの白い馬」
1967年に発表(1969年に教科書に)
子供向け

参考書籍▼

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