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『城のある町にて』のあらすじ解説。家族を失った傷を家族と情景で癒す

『城のある町にて』のあらすじ解説。家族を失った傷を家族と情景で癒す 古典名著

梶井基次郎著作『城のある町にて』。

妹の死に向き合おうとする峻(たかし)が、家族と日常の中で傷を癒していく話です。

この記事では登場人物の紹介、あらすじの簡単な要約、個人的な感想をお伝えしていきます。

登場人物

高い所から見る風景
名前特徴
峻(たかし)物思いにふける青年、静かな環境で自身を見つめ直す
家庭的で世話焼き、病気になったことがある
義兄落ち着いた性格、過去に勝子を救った
信子
(義兄の妹)
寄宿舎に通う少女、素直で穏やか
家庭を支える存在、信心深い
勝子
(姉夫婦の娘)
活発で我が強い、時々頑張りすぎる
祖母勝子を可愛がるが、ある出来事をきっかけにぼけが進む
老人陽気で飄々とした性格
男の子力加減を変えて遊ぶ、少し大人気ない

あらすじを簡単に要約

『城のある町にて』は、6つの章に別れています。

ここでは章ごとに分けて、簡単にあらすじを要約します。

ある午後

妹の墓

主人公・峻(たかし)は都会の喧騒を離れ、姉の家を訪れていた。

それは、かわいい盛りで亡くなった妹のことを、落ち着いて考えるためだった。

城跡に散歩にでる。聞こえてくる子供の泣き声が、妹のもののように思える。

火葬場よりも、この静かな町の中のほうが「喪失」を強く感じさせた。

また、都会から田舎に来た峻は、そんな自然の町へ畏敬の念を感じ始めていた。

特に入り江に惹かれた。なぜか「何かある」という気持ちに襲われた。

手品と花火

連れだって奇術を見に行く

花火が上がった日。
家の人たちから手品(奇術)を見に行こうと誘われた。

峻は若い女の子たちと歩き、幸福な気分になった。

しかしインド人の奇術師が客人を馬鹿にしたような見世物をしたため、気分を損なう。

だが、「先ほど見た花火は、どんな奇術師も叶わない手品だった」と考えて機嫌を戻す。

下らない道化にひとりで腹を立てていた自分が、少し滑稽に思えてきた。

病気

祖母と川に行った勝子

姉が病気になった。腎臓の異常だと分かった。

峻は峻自身が肺を悪くしたときのことを思い出した。

義兄がこの時「良くなるように」とお参りをしてくれていたため、良くなった時に峻は兄の住む「北牟婁(山奥の寒村)」を訪ねた。

そこである日、勝子が川に落ちた。

勝子の曾祖母にあたる70歳を超えたおばあさんが、連れて出たためだった。

病気で寝ていた義兄(勝子の父)は、死に物狂いで川に飛び込み勝子を助けた。

勝子は元気に踊っていた。

その後おばあさんはボケて亡くなった。

勝子

子供が遊ぶ原っぱ

峻が窓から外を見ていると、原っぱで勝子が男の子に倒された。

どうやら奇妙な遊びをしているようだった。

女の子が手を差し出すと、男の子がその手を強く引っ張る。

次の子がまた手を差し出す。

その子も、勢いよく引っ張られ、地面に倒される。

男の子は引っ張る強さに強弱をつけ、女の子たちはそれを楽しんでいるようだった。

しかし勝子だけが、強く地面にたたきつけられているように見える……

その晩勝子の手には棘が刺さっており、勝子は泣いていた。

峻はとげのせいではなく、昼間の出来事が悲しくて泣いているのではないかと感じた。

昼と夜

ある日、峻は城のそばの崖の陰に、立派な井戸を見つけた。

そこで洗濯をしている女性たち。

飛び散る水はどこまでも美しく、小学校の唱歌を思い出した。

しかしこんな穏やかな昼もあれば、眠れない夜もあった。

目を閉じると、まるで空間の中で何かが激しく動いているような錯覚に陥ることもあった。

そんな時は現実に見た景色を想像すると、少し楽になった。

雨に濡れる信子の浴衣

8月も終わりに近づくころ、信子が寄宿舎へ戻る準備をしていた。

信子に世話をやく家族を、峻は美しいと感じた。

雨の夜、寝付けない峻は雨戸を一枚開けた。

城の本丸には電灯が輝いていた。

信子の浴衣が物干し竿にかかったまま、雨に濡れていた。

それを見ていると、不思議なほどに信子の身体つきが思い出された。

峻はまだ熱い額を感じながら、もう一つ夕立が来るのを待った。

物語の舞台は?

松阪城跡

物語の舞台は、三重県松阪市『城』とは松坂城跡のことです。

この作品は作者『梶井基次郎』の体験談から描かれた物語だとか。

梶井本人も3歳の異母妹を亡くし、妹のことを落ち着いて考える為に姉夫婦宅を訪れたそうです。

松阪城跡の二ノ丸跡には、作中の次の一節が刻まれた「城のある町にて」の文学碑もあるそうです。

感想

ノルスタジックな風景

時間の流れがゆっくり感じられる物語。

自然や日常の何気ない瞬間を切り取る描写がすごく繊細で、ノスタルジックな雰囲気を味わえます。

そして本当にごく普通の、何気ない家族。

その中でしか味わえない、気の置けない空気感が現代と変わらずで、心が温まります。

妹も幼くして亡くなったのは不幸ですが、良い家族に恵まれたでしょう。

そういった点で、「後悔」が残らなかったことも、主人公の傷が癒える条件になったのではないでしょうか?

まとめ

  • 大正時代の日本の田舎を舞台にした、静かで情緒的な物語。
  • 井戸や雨の描写が美しく、映画のような雰囲気がある。
  • 信子や勝子との何気ない会話が、時代の空気感を伝えてくる。
  • 夜に眠れない主人公の心理描写がリアルで共感できる。
  • 大きな事件はないが、日常の中での心の揺れ動きが丁寧に描かれている。
  • 物語全体がノスタルジックで、読み終えた後もしばらく余韻が残る。

是非読んでみてください!

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