志賀直哉の短編『 真鶴 (まなづる)』。
水兵と恋に憧れて、衝動的に行動してしまう『兄』のお話です。
青空文庫に収録されるのは2042年予定です。こちらに収録▼
この記事ではそんな『真鶴』の簡単なあらすじ要約・登場人物まとめ・感想…
そして兄の心「なぜ水兵帽を弟に譲ったのか?」について考察していきます。
『真鶴』の簡単なあらすじ

男性教員が女性教員に和歌を問いかけるシーンを見て、「恋」に強い興味を持った兄。(12~13歳の少年)
ある日弟と小田原へ買い物へ行き、衝動的に憧れの水兵帽を買ってしまいます。
父から貰った二人分の金を使い切ってしまった……後悔がよぎったそんな時、
町中で法界節(ほうかいぶし)を流す芸人の一行に出会いました。
(※法界節…別名長崎節。明治中期の流行歌)
兄はそのうちの、月琴を弾く白塗りの女に心を奪われました。

芸を見るだけではなく、彼女たちが入った飯屋の前にまでついていき、眺めて立ち尽くしていた兄。
海の波の音も、法界節の琴や、女の歌声に聞こえてくるようでした。
弟の手を引いて帰りながらも、月琴の女に心奪われている兄。
弟が彼らを追いぬく「熱海行きの軌道列車」を見て、「今日の法界節が乗っていた」と言ったためドキリとします。(嘘か本当に見えたのかは不明)
疲れ切った弟をおんぶしながら、兄は汽車に乗った女との運命的な出会いを妄想します。
(汽車が脱線してあの女が倒れており…等)
家の近くで提灯を持った女が見えました。
ハッとしますが、それは兄弟を心配した母親でした。
寝ていた弟が目を覚まして泣きだすと、兄は自分の水兵帽を被せ「これをくれてやる」と言います。
あんなに憧れた水兵帽も、今の彼にはそれほど大切なものではありませんでした。
登場人物

登場人物はこんな感じです。
名前 | 特徴 | 役割 |
---|---|---|
兄 | 12〜13歳の少年。水兵に憧れている。 | 主人公 |
弟 | 兄に連れられて小田原へ行ったが、疲れ切ってしまう。 | 主人公の弟 |
母親 | 帰りの遅い兄弟を心配して迎えに来る | 兄弟の母 |
父親 | 短気な性格。 | 兄弟の父 |
叔父 | 元・根府川の石切人足で、現在は海軍の兵曹長。 | 兄の憧れの存在 |
男性教員 | 兄の通う小学校の教師。新しく赴任した女性教員と親しげにしている。 | 兄に恋の概念を意識させる存在 |
女性教員 | 新しく赴任した若い女教師。男性教員に和歌を詠まれ、顔を赤らめる。 | 兄が恋を意識するきっかけ |
法界節の男 | 40歳くらいで目が悪い。琴を弾いている。 | 法界節の一行の一人 |
法界節の女 | 顔や手を真っ白に塗り、月琴を弾きながら甲高い声で唄う。 | 兄が魅了された女性 |
法界節の少女 | 兄と同年くらいの少女。厚化粧で拍子木を打ち鳴らしながら唄う。 | 兄が恋する女性とは対照的な存在 |
【考察】水兵帽を弟に譲った理由は?

海軍の兵曹長である叔父の話を聞いて、水平に憧れていた兄。
そんな兄がなぜ、その象徴である水兵帽を手放したのか、考察してみましょう。
1つ言えるのは、「弟の為を想えるようになった」というような理由ではなく、
今日という一日を経て、心から水兵帽に執着がなくなったように見えました。
もう一つの憧れだった「恋」を体感した兄。
こちらに夢中になり、もう一つへの興味が単純に薄れた……というのがシンプルな考察です。
強い好奇心が他所に移ってどうでもよくなった、というのはよくあることですね。
或いは実体験と憧れに違いがあると感じたからかもしれません。
叔父の話だけで水兵に憧れていた兄。しかし想像していたものと、実際体験してみるのでは違う……
ならば妄信的に水兵帽を欲しがっていた自分にも、疑惑が出てくることでしょう。
もしかすると恋の体験を経て、現実的な見方をするようになったのかもしれません。
感想

主人公の少年の「恋って何?」という感情に、気づけばどっぷり飲み込まれていく作品でした。
先生と女教師のやり取りを見て、なんとなく意識しちゃうのが微笑ましい。
自分の感情に名前がつかなくて、ただぼんやりと考えてしまう感情がリアルです。
それが後半、法界節の女と出会って、一気に爆発。
この時の「惹かれるけど、何もできない」というのが、片思いの始まりでしょう。
同年代の女ではなく、夫のいる女性とは新鮮ですね。
この女のことを忘れられずに、汽車に乗ってるかも…とか、崖から落ちる想像しちゃうのも、恋に落ちた人間あるあるなのでしょう。
恋に入り口に立って少年自身が変わっていく。しかしどう変わったのかは周りから見るとハッキリは分からない……
そんな様子が丁寧に書かれた作品だと思いました。
青空文庫に収録されるのは2042年予定です。こちらに収録▼
コメント