伊藤佐千夫著作『野菊の花』。
主人公政夫といとこである民子の純愛が描かれます。
この記事では簡単なあらすじや登場人物を紹介後、
- 民子の死因
- セリフの意味について考察(野菊・りんどう)
- 読書感想
をお伝えしていきます。
※ストーリーのネタバレが含まれますのでご注意ください。
登場人物
政夫 | 主人公。15歳の少年。民子と幼い頃から一緒に育ち恋心を抱くが、家族に引き離される。 |
民子 | ヒロイン。政夫より2歳年上。優しく温和な性格。 政夫を愛しているが、親の意向で望まぬ結婚をさせられ流産。 |
政夫の母 | 民子を幼少期から実の娘のように可愛がるが、政夫との結婚には反対。 結果的に民子を不幸にして深く後悔する。 |
兄夫婦 | 政夫の兄と兄嫁。 政夫と民子の関係を疑い、冷ややかな態度をとる。 特に兄嫁は民子に辛く当たる。 |
お増 | 政夫と民子をよく知る人物。 冷やかすこともあるが二人のことを案じており、民子の悲劇を嘆く。 |
あらすじを簡単に要約

物語の舞台は千葉の矢切村。
15歳の政夫と従妹で17歳の民子は幼いころから一緒に育ち、お互いに好意を持っていた。
しかし、周囲の大人たちは二人の関係を好意的に見なかった。
政夫の兄嫁や使用人のお増は冷やかし、母も「二人が夫婦になることは認められない」という考えだった。

ある日、政夫と民子は棉畑に収穫に行くことになる。
二人は周囲の視線を気にしながらも、一緒に過ごせることに喜びを感じていた。
道中、政夫は民子のことを「野菊のような人」と表現し、民子も政夫を「竜胆のような人」と呼ぶ。
この純粋なやり取りは、二人の関係をより深めた。
しかし、この日の出来事をきっかけに兄嫁たちは二人の仲を疑い、母も距離を置かせようと考え始めた。
政夫は急に中学校へ行かされることになり、二人は引き離されてしまう。
政夫は学校に行く朝、民子とお増に見送られる。
しかし民子は涙をこらえ、最後まで政夫に何も言えないようだった。
政夫も「民さん、それじゃ…」と言いかけるが、声にならなかった。
矢切の渡しで舟に乗り、川を下るうちに、民子の姿は雨に霞んで消えた。
この別れが、生涯最後になるとは知る由もなかった。

学校生活が始まったが、政夫は民子のことが頭から離れなかった。
しかし年末に帰省すると、民子はすでに市川(民子の実家)に帰されていた。
お増から「政夫さんに会いたくて何度も手紙を書こうとしたが、書けなかったらしい」と民子の想いを聞かされる。
翌年、母から「民子は嫁に行った」と知らされる。
政夫は驚いたが、民子の気持ちは変わらないと信じ、「どこへ行こうと民子は民子だ」と自分を納得させた。
六月、政夫のもとに「スグカエレ」という電報が届く。
急ぎ帰ると、母が泣きながら「民子は死んだ」と告げた。
母は「私が殺したようなものだ」と自責し、政夫に許しを請う。
民子は結婚後に妊娠するが流産し、体調を崩して亡くなったという。
政夫は衝撃を受けつつも、母を責めることはせず、翌朝、民子の墓参りに向かう。
民子の実家では家族が政夫を待っていた。
皆、民子の死を悼み、政夫に詫びる。
墓地に向かい、政夫は民子の墓前で泣き崩れた。
墓の周りには彼女が好きだった野菊が咲いており、政夫は「民さんは野菊の中に眠っている」と思う。

家に戻ると、民子の最期について知らされる。
死の前日、政夫の母に「私は死ぬのが本望です」と語り、(おそらく政夫のことを)何か言いかけたが、言葉にならなかった。
そして亡くなった翌朝、家族が遺体を整えると、民子は左手に政夫の写真と手紙を握りしめていた。
それを見た家族や政夫の母は号泣し、政夫も涙を流した。
政夫は毎日墓参りし、墓の周囲に野菊を植えた。
そして後悔し続ける母を励ましながら、学校に戻る決意をする。
民子は不本意な結婚を強いられ、命を落とした。政夫は望まぬ結婚をしながら生き続けている。
「幽明が隔たろうとも、僕の心は一日たりとも民子を離れない」
民子の死因は?

清純なヒロインが亡くなるという、悲しい結末を迎える『野菊の墓』。
民子の死因とは何だったのでしょうか?
簡単に言えば「流産後の体調悪化」なのですが、時代背景や精神面も考慮してみましょう。
まず民子は、政夫への恋心を抱きながらも、親・親戚の意向で望まない結婚を強いられました。
結婚相手は財産もあり、家柄も良いとされた市川の某家の男性。
しかし民子は「あれほど嫌がった」と後に言われるほど、抵抗したようでした。
それでも政夫の母親に「正夫とは結婚させない」とトドメをさされて、結婚を受け入れます。
やがて民子は、夫の子を身ごもりました。
しかし赤子は流産。
流産後の体調が極端に悪化し、ついに6月19日に息を引き取りました。
これには明治時代の産後ケア・栄養管理が現代のように十分ではないという環境的理由もあったでしょう。
しかしこれに加えて、民子自信が「死ぬのは本望」と考えてしまったことも、目に見えない影響があったと考えられます。
「病は気から」と言いますが、もし民子が強く「生きたい」と気力を持ち、無理にでも食べて回復できていたら……
そのようなもしもを考えてしまします。
セリフを読み解く
作中で気になるセリフについても読み解いていきたいと思います。
民さんは野菊のような人だ

主人公・政夫は「民さんは野菊のような人だ」という名言を残しています。
これにはどのような意味があったのでしょうか?
まず、政夫がこのセリフを発する前に、民さん自身が
「野菊の花を見ると身振いするほど好ましく思えるから、私は野菊の生まれ変わりよ」
と言っています。
政夫はこれに同意した形でした。
細かくは説明しなかった政夫ですが、
人知れずひっそりと咲き、風に揺られながらも力強く生きる野菊。派手過ぎず素朴な可愛さ……
政夫はこのようなイメージを持っていることを、婉曲に伝えたかったのではないでしょうか?
政夫さんはりんどうの様な人だ

それに対して民子が言い返したような言葉が
「政夫さんはりんどうの様な人だ」というものでした。
その直前、お増のことを「可哀そうな身の上だから、気遣ってやらねば」と話していた政夫に、
「りんどうが美しくて、急に好きになった」と話を変えた民子。
これを深読みすると
「情の深い政夫の精神が、りんどうのように美しくて好きだ」と言いたかったのかもしれません。
読書感想

政夫と民子のピュアすぎる純愛ものでした。
お互い花に例えられるような性格で、それが当たっているからこそ、ここまでの純愛が成り立った…と考えられます。
好き同士なのに、親とか世間の圧で引き裂かれるとか…今の時代じゃ考えられないですが、政夫が二歳下なのも反対される原因になるのは衝撃でした。
女性のほうが基本的には平均寿命が長いので、男性が養う価値観だとなおさら年上を娶ったほうが良い気がするんですけどね…
LINEも電話もない時代だからこそ、手紙一枚、言葉一つに重みがありました。
二人の悲恋は美しいですが、やはり寂しい結末。
例え親たちから反対されても人生悔いなく生きたいなと思います。
まとめ
政夫と民子の純愛
幼い頃から共に育った二人は互いに想い合うが、周囲の反対により引き裂かれる。
家族の圧力と民子の結婚
民子は政夫と結ばれず、親の意向で望まぬ結婚を強いられる。
民子の死因
流産後に体調が悪化し、心身の衰弱も影響して亡くなる。
象徴的なセリフ
「民さんは野菊のような人」「政夫さんはりんどうの様な人」—二人の性格を花に例えて表現。
読後の感想
純粋な恋が引き裂かれる悲恋物語。親の価値観が若い二人の未来を奪う理不尽さに胸が痛む。
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