志賀直哉の短編『佐々木の場合』。
身分違いの恋が悪い方向に転がり逃げ出した佐々木が、恋に終止符を打つまでの物語です。
気の弱い女性「富」の覚悟と、相反する佐々木の想いとは…?
簡単なあらすじと感想をまとめています。
登場人物

まずは登場人物の一覧です。
人物名 | どんな人? |
---|---|
佐々木 | 主人公。山田家の書生(玄関番)をしていた。お嬢さんが嫌いだった。 |
富 | 佐々木の元恋人、お嬢さんの守り子(世話係)。とても気が弱い。 |
お嬢さん | 山田家の娘。5歳くらいの子だったが、佐々木と富の関係に嫉妬する。 |
山田家の主人 | 富の雇い主 |
奥様 | 山田家の主人の妻 |
医者 | お嬢さんの治療担当 |
『佐々木の場合』の簡単なあらすじ

若い頃書生として山田家に仕えていた佐々木。
そこで「山田家のお嬢さん」の世話係である、奉公人の富と恋に落ちる。
二人の関係は身分違いもあり、密かなもの。
富は気が弱く、佐々木の愛を受け入れながらも「悪いことをしている」という気持ちがあるようだった。
佐々木は富との関係を邪魔するような節がある「お嬢さん」が嫌いで、富はそれも気にしていた。
そんな中、2人の逢引き中にお嬢さんが事故で大火傷を負うという事件が……

お嬢さんは不安定な椅子に乗って倒れ脳震盪を起こし、焚火で襟首あたりをひどく火傷した。
この件は全て富の落ち度とされた。
お嬢さんを嫌っていたことも相まって、佐々木は罪悪感にさいなまれる。
しかしそれでもお嬢さんへの愛情はわかず、その感情も気持ち悪いと感じる。
一方富はお嬢さんに皮膚移植が必要だと聞き、 自分の身体を使ってくださいと申しでた。
山田家の主人はこれに心を動かされ、受け入れて富を追い出すことも止めた。
しかし佐々木はそんな事はとても言い出せず、保身に走る自分にも嫌気がさす。
この件で富のガードが固くなったこともあり、耐えられなくなった佐々木は富の手術中に山田家から去った。
7・8年前の出来事だった。

出世してロシアに行っていた佐々木。
しかしその間も富のことが忘れられず、結婚もしなかった。
そして街中で偶然、山田家に仕え続けていた富と再会する。
お嬢さんといたため声をかけられなかった佐々木は、電話をかけることに。
しかし富は消極的な態度を取り、ついには「もう会わない」と手紙で告げてきた。
「私は今、尼のような気持ちで生きている」「お嬢様に良縁がないうちは、過去の関係を持ち出すのはよくない」と言い、佐々木との再会を頑なに拒んだ。

過去の恋よりも、現在の生活の安定をとった富。
佐々木は、自分の思いが一方的であることに気づき諦めざるを得なかった。
自分が愛情を持って接していたつもりでも、それが必ずしも富の幸福につながるわけではないと悟った佐々木。
佐々木は富の選んだ人生を尊重し、静かに身を引いた。
感想

かなり価値観が食い違う二人の恋愛物語。
それでも惹かれ合っているのが余計に厄介でした。
最初は若気の至り的な恋愛話かと思いきや、時間が経つにつれて二人の関係がどんどんすれ違い…エグい……
お嬢さんの火傷の件はやはり決定打でしたね。
佐々木は「富を救いたい」と考えていますが、そもそも富は救われたいわけじゃありません。
自分で自分の責任を取りきりたいと考えている……
そこに気づかないまま、「会えばどうにかなる」とか思ってるのが、もう…佐々木との考え方の溝を感じてしまいます。
富は強くなっていきましたが、佐々木の心の中には引っ込み思案な、出会ったころのままの富がいるのでしょう。
やはり過去にとらわれず、前を向ける人が強い…そう感じさせられます。
まとめ

- 書生の佐々木と奉公人の富の身分違いの恋物語。
- お嬢さんの火傷事故がきっかけで二人の関係が崩れる。
- 富はお嬢さんへの皮膚移植を申し出て、山田家に留まることに。
- 佐々木は耐えきれず逃げるように山田家を去る。
- 7〜8年後に再会を試みるも、富は拒絶。佐々木は富の選択を尊重し、静かに身を引く。
- 恋愛は片方の気持ちだけでは成立しないことを描いた物語。
ということでした!
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