志賀直哉作の『暗夜行路』。
志賀唯一の長編であり、書き上がるまでに10年以上かかった作品です。
愛に振り回される主人公『時任謙作』。彼は人生の『暗夜行路』の人生の中で最後に何を掴むのかーー?
以下あらすじをイラスト入りで分かりやすく解説します。
(青空文庫に公開されるのは、没後70年後の為2042年元旦予定です)
『暗夜行路』のあらすじ

謙作が自分に祖父がいると知ったのは、母が病で亡くなって2ヶ月後のことでした。
6歳の謙作は、突然現れた祖父の家に引き取られ……
祖父の愛人であるお栄(23・4歳)と共に成長していきます。
放蕩と失恋、そして尾道へ

成長して小説家を志していた謙作。
時には夜遊びすることもありましたが、真剣に母の幼馴染の娘・愛子との結婚を考えていました。
しかしその話は愛子の家族に断られて頓挫。
傷ついた謙作は自分の気持ちを整理するため、東京を離れて尾道で一人暮らしを始めました。
しかし次第に孤独を感じるようになった謙作は、お栄に会いたくなります。
思い切って兄に手紙を送った謙作。
しかしその返信には、知らなかった衝撃の事実が書かれていました。
「崖から突き落とすような話だけど、思い切って書く。お前は母と祖父の間に生まれた子どもなんだ。」
不義の子という事実を知り、人生が崩れ去るような感覚に襲われた謙作。
東京に戻って放蕩にふけるも行き詰まり、次は京都へ移ることにしました。
直子との出会いと結婚

京都の町を歩いている際に、若く美しい女性を見かけた謙作。
謙作は人を介してその女性――直子の身元を探り、結婚を申し込みました。
思いのほか話は順調に進み、結婚が決まります。
東京にいるお栄も「ちょうど知り合いから天津行きを勧められているし、この機会に日本を離れたい」と言って喜びました。
こうして始まった、謙作と直子の新婚生活。
直子は謙作の友人たちと花札の勝負をするような、明るく快活な女性でした。
そんな彼女を見ていると謙作は感傷的になり、「直子は自分の一部」だと痛切に感じます。
やがて子どもを産んだ直子。しかし、生まれた赤子はすぐに亡くなってしまいました。
「どうして、こんなにも運命は自分に牙をむくのか……」
新しい人生を歩もうと決意し、希望の光が見えたと思った矢先に、また絶望が訪れる。
謙作は、そこに見えざる何かの悪意を感じます。
直子の浮気

そんな時お栄が海外でみじめな生活を送っていると知り、謙作は彼女を迎えに行きます。
10日ほど家を空けた後、お栄を連れて帰った謙作。
しかしなぜか直子の様子がぎこちなく、問いただすと謙作の留守中に従兄の要と浮気したことが判明します。
「許すことはできる……。でも、バカを見たのは自分だけじゃないか。」
その後、直子は二人目の子どもを無事に出産しました。
自分の子だと分かっていましたが、謙作の心には深いわだかまりが残りました。
ある日、駅のホームで衝動的に直子を突き飛ばしてしまった謙作。
まずいと考えた謙作は、一人で精神の療養を決意します。
「しばらく別れて暮らす。でも、これは消極的な意味じゃない。」
「ええ……わかっています。」
こうして、謙作は伯耆大山(ほうきだいせん)へ向かいました。
大自然での悟り

精神も肉体も包み込むような、大きな自然が広がっていた伯耆大山。
しかし謙作は体調を崩し、高熱を出してしまいます。
すると、この知らせを受けた直子は急いで京都から駆けつけました。
以前よりも痩せ、やつれた顔をしていた直子。
謙作は黙ったまま、直子の顔を目で撫でるように見つめました。
その眼差しは、今まで直子が見たことのないほど柔らかく、愛情に満ちたものでした。
直子は、その視線に引き込まれるように、何時間も謙作の顔を見つめ続けます。
そして、彼女は心の中で静かに誓いました。
「私はこの人についていくのだ」
登場人物のおさらい

名前 | 関係性 | 特徴 |
---|---|---|
時任 謙作 | 主人公 | 小説家志望。幼少期に祖父の家に引き取られる。波乱万丈の人生を送る。 |
直子 | 謙作の妻 | 美しく快活な女性。謙作と結婚して出産するが、過ちを犯してしまう。 |
お栄 | 謙作の育ての親 (祖父の愛人) | 謙作を幼少期から育てる。美しく包容力のある女性。 |
祖父 | 謙作の実父 | 謙作の母と関係を持ち、謙作をもうける。謙作を引き取る。 |
母 | 謙作の母 | 産後に亡くなる。謙作の実の父は祖父であることが後に発覚。 |
信行 | 謙作の兄 | 謙作の良き理解者。謙作に出生の秘密を伝える。 |
愛子 | 謙作の初恋相手 | 母の幼なじみの娘。謙作は結婚を申し込むが断られる。 |
要 | 直子の従兄 | 謙作の留守中に直子と関係を持つ。 |
お米 | 直子の母 | 謙作を優しく迎え入れ、励ます存在。 |
完成まで10年以上かかった大作

暗夜行路は志賀直哉が 10年以上かけて書き上げた唯一の長編です。
『暗夜行路』の前に志賀は『時任謙作』という『父との関係』をテーマにした作品を書いていましたが……
その主人公が『暗夜行路』にも引き継がれた形でした。
『暗夜行路』のテーマは「自己探求」と「調和への到達」 。
『時任謙作』が名前の通り、時の流れに身を任せ、運命に対して謙虚に生きていく……そんな作品です。
東京・尾道・京都と続いた謙作の「暗夜行路」。
しかし最後に辿り着いた伯耆大山にて謙作は安らぎを得、直子は「この人についていこう」と感じる。
これがまさに「調和」でしょう。
タイトルの秀逸さが光る作品です。
まとめ

- 志賀直哉の唯一の長編小説であり、完成まで10年以上かかった大作。
- 主人公・時任謙作は愛に翻弄され、自己を探求し続ける人生を歩む。
- 幼少期に祖父に引き取られ、祖父の愛人・お栄と共に成長。
- 失恋や出生の秘密を知り 東京・尾道・京都と放浪する。
- 直子と結婚し、子どもを授かるも、悲劇に見舞われる。
- 直子の浮気を知り、精神の均衡を崩して伯耆大山へと向かう。
- 大自然の中で悟りを得て、直子との関係に新たな希望を見出す物語。
また、この作品では「浮気されて許せなかった夫(謙作)」が描かれますが、志賀作品には「妻の浮気を許せたパターンの話」も存在します。
それが短編『雨蛙』。こちらも面白いです▼
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