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宙ごはん・ネタバレ感想。映画化された町田その子著作、あらすじも。

宙ごはん・ネタバレ感想。映画化された町田その子著作、あらすじも。 小説・実用書

町田そのこさんの著書、『宙ごはん(そらごはん)』ネタバレ感想記事です。

宙ごはん
小学館
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2023年本屋大賞で8位、キノベス!2023で15位に入賞した作品です。

 あらすじ

この物語は、あなたの人生を支えてくれる

宙には、育ててくれている『ママ』と産んでくれた『お母さん』がいる。
厳しいときもあるけれど愛情いっぱいで接してくれるママ・風海と、イラストレーターとして活躍し、大人らしくなさが魅力的なお母さん・花野だ。

二人の母がいるのは「さいこーにしあわせ」だった。
宙が小学校に上がるとき、夫の海外赴任に同行する風海のもとを離れ、花野と暮らし始める。
待っていたのは、ごはんも作らず子どもの世話もしない、授業参観には来ないのに恋人とデートに行く母親との生活だった。

代わりに手を差し伸べてくれたのは、商店街のビストロで働く佐伯だ。花野の中学時代の後輩の佐伯は、毎日のごはんを用意してくれて、話し相手にもなってくれた。

ある日、花野への不満を溜め、堪えられなくなって家を飛び出した宙に、佐伯はとっておきのパンケーキを作ってくれ、レシピまで教えてくれた。

その日から、宙は教わったレシピをノートに書きとめつづけた。

全国の書店員さん大絶賛! どこまでも温かく、やさしいやさしい希望の物語。

ザクっと感想(微ネタバレ)

飯テロかな?と思って読み始めましたが違いました。

ごはん描写も出てきますが、「食べ物の味なんて、その時の気持ち次第で変わってくる」という、割とシビアな主張を感じました。

「ごはんを作る人」の気持ちが分かる、或いは「作ってあげたい」と思うようになる物語です。

主な登場人物

  • 川瀬 宙(そら)……生みの親【花野さん】と暮らすことになる女の子。育ての親は【風海】
  • 川瀬 花野(かの)……宙の生みの親。美しき画家だが、干物的な一面も。
  • 佐伯 恭弘(やすひろ)……やっちゃん。花野さんに片思い。花野さんに頼まれ宙の食事を作ることに。
  • 風海(ふうみ)……花野さんの妹。宙の育ての親。

ネタバレ感想

子どもに料理を作る、恭弘の気づき

ああ、この子をこれから生かしていくのはオレの料理なんだ、と唐突に思い至った。背中に電流が走ったかのような、激しい衝撃にも似た気付きだった。

『他人の為の料理』という面倒な事へのやりがいは、こういう自覚から生まれてくるのだろうなと感じた文章。

無力な子供は放置すると餓死してしまうかもしれない。だから尊いのではないか……そんなことを思いました。

「素敵」をかみ砕いたような花野さん

繊細な見た目からは想像できないハスキーな声。左の八重歯がこぼれて見える。すると、ふわふわしていた輪郭が急にくっきりと花野を形作る。あの八重歯が、花野を花野たらしめているのではないだろうか。

幼稚園児の宙から見た、実の親『花野さん』。

かなり現実離れしていて、宙は嬉しそうでしたが、子供によっては物怖じしてしまいそうな印象の人でした。

宙が素直ないい子で相性が良かったのではないかと思います。

こんな朝食一回くらいは作りたい

ふかふかと湯気を上げるごはんに、わかめと玉ねぎの味噌汁。美味しそうな焼き色のついた厚焼き卵と、足を跳ね上げたタコさんウィンナー。ふわりと出汁の匂いが鼻を擽った。

出汁が薫る家庭料理……素敵ですね。

それにしても朝ごはんを作りに来る他人というのが新鮮です。

突然の大人の事情

風海たちと暮らしていた宙は、小学一年生になるころ、実の親の花野さんと一緒に暮らすことに。

理由は育ての父の海外出張。ここで雲行きが少し怪しくなります。

風海『おかしいわよ。大事にしてたら手元に置きたいじゃない! 自分で育てたいはずよ! 私は、大事に育てた宙を手放したくないもの。ねえ宙、そうでしょう? ママのこと大好きでしょう?』

風海は束縛系でしょうか?

だとすればここで花野さんの元への移動はプラスですが……

引っかかるのはまだ小学校に上がってない子に、こんな大切なことをその場で決断させたことです。

「どっちがいい?」ではなく、親の方で決定してゆっくり説得するか、選択肢を与えるにしても、期間と知識を与えるべきだよなぁと思いました。

よっちゃんの一途な想い

なるほど、と佐伯はひとり感心して、宙に「オレ、宙が呆れたほうの花野さんが好きなんだよ」と言った。「そのひとにこうやって頼られて、嬉しいんだ」

物語前半においては唯一の良心やっちゃん。

花野さんが学生時代にいじめから助けてくれたことが、恋心の始まりらしいです。
ところが現実は非情。

花野さんの彼氏

「説明するの、忘れてた。宙、この柘植さんはね、あたしの恋人なの」

花野さんには、宙のおじいちゃん世代の恋人が……。

後々分かることですが、柘植(つげ)さんは妻子持ち。

そんな人を自分より優先され、一緒に食事をとらされる宙……

中々可哀そうです。

ハッキリ言う宙

「カノさんなんてだいきらい! ギャラクシーズにたおされちゃえ!」

ただ、子供の宙がバシッと言うべきところで言ってくれます。

”意思表示”というのは、面倒くさくても、時々でも、譲れないときはちゃんとやらないとって思いますね。

じゃないと相手は気づかずに調子に乗ることがままあるので……

最悪な一言

「……あー。やっぱ、無理だわ」

宙の怒りを聞いた花野さんの一言。

これは後々(自分自身が)無理だわ的な意味だと判明しますが、宙は自分に対して「この子無理」と言われているのだと誤解します。

私も宙のほうで読み取りました。

マイナスな気分の時は、色々な可能性を加味せずに悪い方にとってしまいがち。

不用意なことを言わずに一度”黙る”。
時間を置いてもう一度話し合う、ということが案外大切かなと思いました。

喧嘩になったときに活用したいですね。

飯テロ・パンケーキ

ぱりっと焼かれた表面に少しの抵抗があって、フォークの先が沈む。ぐっと手前に引くと甘い香りが鼻を擽った。ふわふわしたたまご色の生地を大きく切り分けて口に運ぶと、表面は少し硬めでかりっとした食感。中は雲を口に入れたかのようにすっと溶けて消えた。最後に残るのはバターの豊かな香りと、イチゴジャムの爽やかな酸味。

作りたくなっちゃいますね。

見えない所の努力

「花野さん、宙が来る前にめちゃくちゃ部屋を片付けてたんだぞ? それに、オレにわざわざ連絡してきて、『子どもが好きそうな料理を作ってあげて』って。『よろしくお願いします』って頭下げてきたときには腰抜かすかと思ったよ。頭下げるのが嫌いなあのひとがあんなこと言うなんて信じられねえ。

どうしようもない大人に見えても、見えないところで努力していたり、継続できていないけど最初はちゃんとやろうとしていた……

家族ならば、そういう努力を見つけてたり思い出してあげたいなと思います。

今回はやっちゃんのファインプレーがあってのもの。
必死な時に他者を巻き込むのも、良い方向に進めるための鍵だと感じました。

佐伯の愛情

「宙が大人になったときに、何でも美味しく味わえる舌を持っていてほしいんだよな、オレは」

この物語の魅力の一つは、間違いなく佐伯の愛情です。

或いはご飯を作る人の気持ちが分かることでしょうか?
いつも作ってくれる人への感謝や、自分がそちら側に立ってみたいと思えれば読んだかいがあるなと感じます。

花野さん

宙はそんな姿を、かつて見慣れた顔──保育園で、迎えに来た親の姿を見つけた友達そっくりだと思って見つめた。自分を全部受け止めてくれる存在の前で、それまでの寂しさや不安を忘れ去って笑う子どもの顔とよく似ている。だから宙は『カノさんはとても弱いひとなのだ』と思った。

柘植さんに依存していた花野さん。

これは、物語が始まった時、大人の形を死ながら子供だった彼女の成長物語でもあります。

大人と子供、逆転現象が起こっている物語です。

美味しさなんて、気持ちによる

いつもだったら「わあ」と声を上げてフォークを急いで掴むところだけど、どこかくすんで見える。食欲が自分から切り離されてしまったようだ。のろのろとフォークを取り上げて、カウンター越しに微笑んでる佐伯を軽く睨んだ。

この物語は飯テロではない。

食べる時の気分次第で忘れられない味にもなるし、逆に味を感じないこともある。

けれど愛情と共に食べさせれば、心をほぐして余裕を与えてあげられることもあるーーー。

「美味しいもの食べれば幸せ」なんて、人間ってそんな単純じゃないということが描かれています。

グサリときた一言

これじゃ、我儘を言った者勝ちじゃないか。嫌な事でも嫌いな食べ物でも、それが決まりだからと受け入れているひとが、馬鹿みたいだ。

誰しも一回は考えたことがある理不尽。

大事なのは、この正義を貫ける行動をとれるようにすることだと思います。

我儘に負けない、反発するメンタルを持った人間になりたいですね。

個人的に一番好きな登場人物、マリーちゃん

「でもお互いさ、ちょっと変わった親と、ちょっと変わった『家族』として暮らしやすいようにする努力をね、していきましょうよ」 「そうですね。そうしましょう。」

登場時宙の敵ポジだったのに、最終的には個人的ベストキャラクターになったマリーちゃん。

なんと柘植さんの孫。そして柘植さんと花野さんの不倫関係も認知しています。

ルール違反しまくる大人たちの中で育ったマリーちゃん。

母に口に絵の具突っ込まれるエピソードは可哀そうがすぎました。

そんな彼女の凄い所は、毒親から導き出した、”母親”の概念です。

母親像はアイドルと同じ

「ただの理想なんだよ。アイドルみたいな、ファンタジーみたいな、ええとなんて言うんだっけ。ああそうだ、偶像!偶像なんだよ。素敵な母親なんてのはどこにも転がっていなくて、お母さんはただの『家族』なわけ」

言われてみれば確かに、母親というものは神聖化された面があります。

子どもの気持ちを敏感に感じ取り、何よりも大事にする。
そういった役割は父親より母親に与えられがちです。

然し物語の話。現実に当てはめれば期待しすぎだと、マリーちゃんはそういいます。

ではどこからが期待しすぎなのか?ここからは私の意見ですが、母親ではない別人物を基準にすればいいのではないでしょうか?

例えば父親。ごはんを作ってくれること、世話を焼いてくれること、自分の気持ちに気付いてくれること。それを父親にも期待するだろうか……?

しない……

期待しすぎを辞めると、家族関係は少し楽になるんですね。

家族だから「もういい」とする

「でも、家族だから。わたしと花野さんは、家族だから。今回は、もういい。いいから。ただ、二度と、絶対にしないで」

花野さんが柘植さんと不倫だったことを「もういい」とした宙。

一般的にはダメなことでも、家族として許す。一緒に生きる為に「いいとすべき」ということはある。そういった常識外の理解を考えさせられた宙の想いです。

やっちゃんの恋愛、決着

花野さんとは一度は付き合ったけれども別れ、智美さんという人と結婚したやっちゃん。

柘植さんが亡くなった後、自分の現在地が分からなかった花野さん。
彼女を山頂まで案内したのは確かにやっちゃんだったけれど、次に二人が登りたい山は違う。
やっちゃんは宙を含めた三人で見た景色に満足しているから、後悔はない……

この比喩が割と好きです。

花野さんの過去

宙は、泣き出しそうになる。花野はもう四十四歳だ。そんな年まで、心を麻痺させていた。支配され続けていたのだ。

他の本屋大賞作品に比べても、『宙ごはん』はかなり長編です。
電子書籍で400P。

明かされることはないだろうなぁと思っていた過去まで網羅されている印象でした。

やはり思うのが子供の頃育ってきた環境、刷り込まれ続けてきた思想の影響力の大きさ。
これが悪いもので、大人になって気づいて逃れたつもりでも、逃げられていなかったこと……

どうすればいいんでしょうか?

やりすぎでも、関連するもの全て(花野さんの場合は家を)捨てた方がいい……そんな気さえする根深さです。

「やさしい」の曖昧性

「やさしいって、例えばどういうことですか。仕事はしてくれますし、生活費もきちんと毎月くれました。普段はにこやかで、時々はヒロムと遊んでくれますけど」

けれど酒を飲むと手が付けられない。
飲酒運転でやっちゃんをひき殺した、その妻の言葉です。

やっちゃんが死んじゃうのはさすがに想定外でした……

それに対して花野さんは

「そうじゃなくてね、『ごめんなさい』、『ありがとう』を伝えてくれるか。そして、『君は大丈夫?』って訊いてくれるかってことだよ」

と答えます。

「やさしい」という言葉は曖昧で、いう人聞く人で認識の差が起こりやすい……このポジティブな言葉の弱点を知りました。
ここで具体的な優しさを述べられる花野は凄いなぁと思います。

「パンケーキを、作るの」

宙は、やっちゃんを亡くして抜け殻のようになってしまった智美さんに、思い出のパンケーキを作ります。

(略)あのひとは、ここにいた。そして、残せるのね。じゃあ私も、恭弘さんを残していけるのかしら。

やっちゃんの店と想いを継ぐ宙。

やっちゃんが作った「幸せな智美さん」は、やっちゃんが亡くなっても遺してほしいなと思います。

まとめ

『宙ごはん』は、食事と家族、そして成長を描いた温かい物語でした。

宙が経験する「食べ物を作る人の気持ち」や、料理を通して深まる人間関係は、大きな共感も。

また、母親像や家庭のあり方について考えさせられる場面が多く、どこか現実味のある優しさが描かれています。

登場人物それぞれの愛情や葛藤が丁寧に描写され、特に佐伯の料理や花野の成長が印象的!

是非読んでみてくださいね。

宙ごはん
小学館
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