透明な壁の向こうと自分との間には、著しい段差がある。世界のありのままの姿を、オートマティックに捻じ曲げてしまう分厚い壁。みずからの不信が作り上げたその巨大な防壁が、目に映るものすべてを脅威に変換してしまう。
この脅威は、幻だ。
手を伸ばすべき現実はいつも、恐れの向こう側にある。
安壇美緒(読み方:あだんみお)の著作『ラブカは静かに弓を持つ』(出版社:集英社)
ネタバレありの要約・感想記事です。
心に刺さる名言についてもご紹介します!
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あらすじ
武器はチェロ。
潜入先は音楽教室。
傷を抱えた美しき潜入調査員の孤独な闘いが今、始まる。
『金木犀とメテオラ』で注目の新鋭が、想像を超えた感動へ読者を誘う、心震える“スパイ×音楽”小説!
少年時代、チェロ教室の帰りにある事件に遭遇し、以来、深海の悪夢に苛まれながら生きてきた橘。
ある日、上司の塩坪から呼び出され、音楽教室への潜入調査を命じられる。
目的は著作権法の演奏権を侵害している証拠をつかむこと。
橘は身分を偽り、チェロ講師・浅葉のもとに通い始める。
師と仲間との出会いが、奏でる歓びが、橘の凍っていた心を溶かしだすが、法廷に立つ時間が迫り……
【第25回大藪春彦賞受賞】
【第6回未来屋小説大賞第1位】
ザクっと感想・レビュー
まず、美麗な表紙イラストが見所!内容にマッチしていて最高でした……
イラストレーターはよしおかさん↓
よしおか|初画集発売中(@o10fu)さん / Twitter
主人公の橘がイケメンです。
あらすじに「美しき」って書いてありますからね…!
(下記にてはっきりした人物イラストが見られますので、是非読んでみてください♪音楽教室の教師、浅葉のスピンオフも!)
スペシャルショートストーリー「音色と素性」 | 集英社 文芸ステーション (shueisha.co.jp)
さて、この作品はフィクションながら実話……実際あったニュースをモチーフにしている作品でした。
まずはこのニュースを簡単に抑えておきましょう!↓
JASRAC、ネットで物議醸す「音楽教室に潜入調査」報道にコメント 「違法ではないと認識」 – ITmedia NEWS
言わずと知れた日本音楽著作権協会『jasrac』が、『ヤマハ音楽教室』に対して潜入捜査をし、世間を騒がせたニュースです。
教室での演奏が『演奏権』の侵害にあたるとして、裁判まで実態調査の名目で行われました。
主人公の橘はこの潜入捜査員、つまりスパイの役どころなわけです。
この、ジャンル
音楽×人間ドラマ×スパイ(微ミステリー)
という異色の世界観が生み出すヒューマンドラマ。
個人的にはかなり好きな物語です。
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主な登場人物
沢山いますが、最低限でピックアップです。
橘樹(たちばないつき)……主人公。幼少時にチェロを習った経験があるが、ある事件をきっかけに辞めている。重度の睡眠障害持ちイケメン。上司から音楽教室への潜入活動を命じられる。
塩坪信宏(しおつぼのぶひろ)……橘に音楽教室への潜入活動を命じた上司。
三船綾香(みふねあやか)……総務部所属。才色兼備な人物。最近、橘に妙に絡んでくる。
浅葉桜太郎(あさばおうたろう)……音楽教室のチェロ講師。橘にチェロを教える。いい意味で講師らしからぬオープンな雰囲気。
物語の解像度を上げよう!
紹介動画・対談リンク
★斉藤壮馬さん×安壇美緒さんスペシャル対談 | 集英社 文芸ステーション (shueisha.co.jp)
★安壇美緒『ラブカは静かに弓を持つ』刊行記念インタビュー 「デタッチメントでも刹那的でもない、永続性のある関係を」 | 集英社 文芸ステーション (shueisha.co.jp)
ラブカとは?登場映画は実在する?
橘はスパイ映画『戦慄き(わななき)のラブカ』の劇伴(シーンに合わせて映像の背景に流す音楽のこと)を演奏することになります。
ここで注意事項ですが、
スパイ映画『戦慄きのラブカ』は作中設定の為実在せず、
深海魚『ラブカ』は実在します🔻
映画あるんだと思って検索してしまいましたが、映画と曲はありません。
幻のサメと言われているそうです。
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心に刺さる名言
冒頭でも引用しました、潜入捜査員だとバレた後の主人公の独白。
透明な壁の向こうと自分との間には、著しい段差がある。世界のありのままの姿を、オートマティックに捻じ曲げてしまう分厚い壁。みずからの不信が作り上げたその巨大な防壁が、目に映るものすべてを脅威に変換してしまう。
この脅威は、幻だ。
手を伸ばすべき現実はいつも、恐れの向こう側にある。
これには続きがあります。
自分に欠けているらしい、他人への想像力。三船が言う通り、謝ったって浅葉は困るだけかもしれない。あるいは、もっと怒らせてしまうだけかもしれない。
だけど、その予想のすべては、壁のこちら側にあるものだ。
みずから作り上げた巨大な防壁の向こう側に、いい加減、一歩を踏み出すべきだった。
一般的に「他人の感情を想像していないような行動」は、詰られたり軽蔑されたり……兎に角「良くないこと」ととらえられがちです。
しかし想像した他人の感情のすべては、壁のこちら側にあるもの。
人によって分厚さに差はあるでしょうが、必ず捻じ曲げる壁が存在するのです。
いくら想像力豊かな人だとしても、その人の感情はその人にしか分からないという事実を認識し、壁越しではなく直に現実を受け取る事。
それがよく言われる「壁を取っ払う」「心を近づける」といったことなのだと、初めて理解した気がします。
人間関係に臆病な人に是非知ってもらいたい言葉です。
この言葉を実現し、ラスト、橘は「ミカサ音楽教室」の面々にもう一度会いに行きます。
結末は明言されおらず、ミカサ音楽教室に生徒として戻る未来があるかは分かりません。
ですが、チェロは続けるのだろうなという希望を持てるようなハッピーエンドと言えるでしょう。
自分の認識が現実と隔離していることに気付き、本質に触れる勇気を持つ。覚えておきたいと思います。
まとめ
ラブカは静かに弓を持つ|ネタバレ感想・グッとくる名言についてまとめると……
- 透明な壁は、自分の不信が作り上げたもの
- 壁の向こうの現実は恐れの向こう側にある
- 登場人物はスパイと音楽教室が舞台
- 実在する深海魚「ラブカ」と、作中のスパイ映画がリンク
- 人間関係における壁を超えるための勇気が描かれている
是非この物語を読んで、心に刺さる名言と共に、壁の向こうの世界に触れてみてください!
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