梶井基次郎の短編『檸檬』。
日々の不安からひと時の解放を求める主人公を描いた作品です。
五感すべてでレモンの魅力を感じ取るシーンが絶妙!
この記事では
- 簡単なあらすじ要約(イラスト付き)
- 丸善や果物屋でレモンに惹かれた理由の解説
- 作品についての読書感想文
をお届けします。
簡単にあらすじを要約解説!
何とも言えない不吉な気持ち……焦りとも、嫌悪ともつかない感情が、ずっと「俺」の心を締め続けていました。
理由も分からないまま、じっとしていられない。
現実の自分を見失うように意識して、京都の街を歩きます。

俺はみすぼらしいけど美しいものに、無性に惹かれていました。
- 古びた町並み
- くすんだ部屋
- 安っぽい絵の具で描かれた花火のパッケージのデザイン
- 細工された紙箱に詰められたネズミ花火
- ビードロやおはじきや南京玉

「手に取るだけで少しでも心が満たされるもの」が欲しい……しかしほとんどお金は無い。
かつて好きだった丸善(香水瓶やたばこ、小刀や石鹸などが売られている書店)も、居心地の悪い場所になってしまいました。
しばらくさまよい続け、足を止めたのがお気に入りの果物屋の前でした。
普段はあまり見かけない果物――レモンが目につきます。
なぜか無性にに惹かれ、ひとつだけ購入した俺。
レモンを持ったまま歩き続けると不吉な気持ちが和らぎ、なぜか幸福感が湧いてきます。
ずっと重くのしかかっていた憂鬱が、レモンひとつでスッと軽くなった……
さっきは避けた丸善も、今なら入れる気がする。
しかしいざ入ってみると、幸福な気分は消えていき、本のページをめくるのにも億劫さを感じました。
そんな時思い出したのはレモンの存在。
ふと、本の上にレモンを置いてみたらどうだろう?と考え、本を積み上げて頂点にレモンをそっと置きました。

するとレモンの鮮やかな黄色が、本の重たい色彩を吸い込むようにして、カーンと澄んで見えました。
埃っぽい丸善の空気が、一瞬でリセットされる気がします。
考えてみれば、こんな単純な感覚が、俺にとってずっと求めていた「しっくりくるもの」だったのかもしれません。
緊張感が消えた丸善。
ふともう一つアイデアが浮かびました。
「この本の塔にレモンを置いたまま、何食わぬ顔で外に出てみたらどうだろう?」
想像するとくすぐったいような気分になり、レモンを置いたまま店を出た俺。
丸善の本棚に、俺は黄金色に輝く“爆弾”を仕掛けた。
もし10分後に、この静かな書店が大爆発を起こしたら――。
そんなバカげた想像を、俺は本気で楽しみながら京極通りを歩いていきました。
物語の舞台『丸善』とは?書店なのか?

丸善(まるぜん)は、日本の老舗書店のひとつで、明治時代から続く書店チェーンです。
もともとは洋書や輸入雑貨を扱う高級書店として知られており、文房具や輸入雑貨、香水、パイプなんかも売っていたようですね。
この小説『檸檬』では、主人公が京都の丸善に立ち寄るシーンが有名です。
残念ながら『檸檬』の舞台になった京都の丸善(河原町三条店)は、1970年代に閉店してしまいましたが……
京都の丸善ジュンク堂書店(四条烏丸店)(2015年オープン)などは『檸檬』を意識したサービスも実施。
ファンの聖地のようになっているそうです。
【考察】なぜ檸檬だったのか?果物屋で惹かれた理由

「俺」が果物の中で、ひときわ檸檬に惹かれた理由は何だったのでしょうか?
ここでは「なぜ檸檬だったのか?」を考察していきます。
1つの理由は、檸檬の「明度」にあるのではないでしょうか?
果物屋は店先だけはなぜか妙に暗く、さらに、低く垂れ下がった庇(ひさし)の上が真っ暗に見える
とありました。
そんな場所で電灯に照らされた果物たち。
中でも檸檬は明るい黄色で、ひときわ目立ってもおかしくありません。
(明治時代の果物屋というと、他に栗、柿、和梨、葡萄、ミカン、リンゴなどが考えられます)
さらにその魅力に拍車をかけたのが「物珍しさ」でしょう。
いつも置いてある果物は見慣れてしまう…知覚順応してしまうため、目がいかなくなります。
最後に、これは感覚的なものですが「フレッシュさ」もあったかもしれません。
鬱々とした状況の時、華やぐような新鮮さ、みずみずしさが欲しいとは感じませんか?
例えば檸檬と同じくらい明るいバナナだとするとどうでしょう?
もったりとした甘さを想像して「今はいらないかも…」と思いませんか?
檸檬の想像すると唾液がでるような酸っぱさも、理由になっていたのかもしれません。
【読書感想文】作品のテーマを考察

『檸檬』の主題はなんなのか?
個人的にですが、これは「日常の重苦しさの中に、ほんの一瞬の自由や解放を見つけること」を描いた作品だと思います。
病気や借金で現実が上手くいかず、音楽・詩ですら楽しめなくなっている主人公。
主人公は息苦しさが「病気や借金のせいではない」と考えていますが、一方で丸善のレジを「借金取りのように思える」と綴っています。
それはやはり、借金を気にしている人の感想でしょう。
しかしそんな感情から解放させてくれたのが、レモンという「小さな異物」でした。
レモンに辿り着いたのは偶然でした。以下のような魅力が作用したとも考えられますが、これは後付け。
✔ レモンの冷たさ → 熱っぽい体に心地いい
✔ レモンの香り → フレッシュで現実を忘れさせてくれる
憶えておきたいのは、自分が行き詰った時に心をいやすものを「探す」という行為です。
ストレスで爆買いする前に、檸檬のようなフレッシュでシンプルなものを手に取ること。
匂いを嗅いで、その冷たさを味わえば……
とても安上がりで、この主人公のように気持ちが切り換えられる可能性があることを、覚えておきたいです。
まとめ

『檸檬』は、現実の重さから一瞬の解放を求める物語。
病気や借金に苦しむ主人公が、レモンを通して自由を感じる瞬間を描く。
レモンに惹かれた理由は、「明るい黄色」「物珍しさ」「フレッシュさ」。
暗い果物屋の中で際立ち、知覚順応していない新鮮な存在だった。
レモンを本の上に置いたことで、「小さな異変」を生み出す。
主人公にとって、レモンは「自分だけの革命」だった。
作品のテーマは「日常の中で小さな自由を見つけること」。
行き詰まった時に、シンプルなものに癒される大切さを教えてくれる。
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