『新世界より』の最後の一文「想像力こそが、すべてを変える」。
主人公・早季は「蛇足かも」と言いながらも、千年後にあてた手記を、全人学級の標語であったこの言葉で締めくくっています。
そしてこの言葉、改めて読み直すと『新世界より』という物語全体のテーマなのです。
決して読者に想像を委ねるふんわりした言葉ではなく、早季が呪力に目覚め、通過儀礼を受けたときからずっと芯に染みついていた言葉なのです。
この記事では「想像力こそが、すべてを変える」の意味を原作の作中描写から紐解き、考察していきます。
原作描写のおさらい

標語というのは目標のようなものです。つまりこの言葉が響く早季には「変えたいもの」があるということです。
それは何なのか?以下、原作のおさらいです。
『新世界より』は、渡辺早季(35歳)の手記という形式で語られる。
人類は科学によりサイコキネシス(呪力)を手に入れてから、500年の暗黒時代を歩んだ。
最強の能力者は核兵器を凌ぐ力を持ち、世界の人口は最盛期の2%以下に。
暗黒時代が終われば、対人攻撃を防ぐ方法が一番懸案となった。
そこで行われたのが、
- 徹底した教育
- 危険因子の排除
- 遺伝子改変で攻撃抑制と愧死機構(同種の人間を攻撃しようとすると、警告→死亡する仕組み)を与えること
である。
それでも早季は10年前、呪力を持った親友の子供による大量虐殺を経験した。
現在、倫理委員会の議長となった早季。
彼女は手記を
わたしたちは、はたして変わることができたのだろうか。今から千年後に、あなたが、これを読んでいるとしたら、その答えを知っている事だろう。
願わくば、その答えが、イエスでありますように。二四五年十二月一日 渡辺早季
蛇足かもしれないが、最後に、全人学級の壁に貼られていた標語を、ここに記しておきたい。
想像力こそが、すべてを変える。
という言葉で締めくくった。
【結論】「想像力こそが、すべてを変える」の意味とは?

まずは結論からいきましょう。
「想像力こそが、すべてを変える」
早季が卒業しているにも関わらず、この全人学級の標語を引用したのは、
現在も早季自身がこれを「標語」としているからだと思われます。
早季は暗黒の過去と現在の闇を熟知した上で、
「想像力=他者の痛みを想像する力」で、「本当の意味で人類を変えたい」と考えています。
つまり、この手記は、千年後の同胞にあてた長い手紙であり、これが読まれるときには、わたしたちが本当の意味で変わり、新たな道を歩みだせたのかどうかも、明らかになっているはずだ。
「本当の意味で」というのは、前回の歴史の節目…「暗黒時代の終わり」では、人類の変化は不十分だったと言いたいのでしょう。
早季はこの節目に設けられた「攻撃抑制」と「愧死機構」を「もう一度すべてが灰燼に帰すことがあっても脱ぎ捨てるべき」だと考えています。
過激な思考ではありますが、
確かに「強制的に同族に攻撃できない」というのは、10年前のような悲劇を呼ぶこともあります。
そして早季は、想像力を誰よりも駆使し、大切にしてきた主人公です。
早季の原点となった無瞋上人の名言

早季は昔を回想するとき、真っ先に12歳時の「通過儀礼」を思い出しています。
「相手の身になって考えよ」と説かれ、無瞋上人が目の前で自分の膝を刺し「あなたのせいでこうなっている、私を殺さないでください」と早季に訴える……
この儀礼の最重要目的は、「呪力が発現した子供に、愧死機構がちゃんと機能するのか?」の確認でしょう。
しかし最高の人格者「無瞋上人」の法話は、決してそのような事務的なものを感じさせません。
「そうです。あなたの胸で相手の痛みを感じられるかどうか。感じられれば、何とかして、相手を助けてあげたいと思うはずでしょう。それが、人間として、一番大事なことなのですよ」
「呪力だけではなく、その痛みこそが、人と獣とを分かつものだということを」
この想像力に関する名言こそ、早季が何度もこの儀礼を思い出す理由だと考えられます。
誰よりも「他者の痛みを想像できる」主人公

実際、早季は登場人物の誰よりも、「他者の痛みを想像できる」人物です。
- 友人たちの日和見的な意見を無視して、水路に転落したバケネズミ(放置すると死にそう)を助けた
- スーパークラスター爆弾を批判
- 規則に背いて、スクィーラ殺害。100年の無間地獄から解放した
- 人間に従順ではないバケネズミコロニーの抹消に、一人だけ最後まで反対した
スクィーラを楽にする際、「規則より大事なものがある」と考えた早季。
「そうです。あなたの胸で相手の痛みを感じられるかどうか。感じられれば、何とかして、相手を助けてあげたいと思うはずでしょう。それが、人間として、一番大事なことなのですよ」
この無瞋上人の言葉が、早季には強く刻まれているように思います。
「想像力こそが、すべてを変える」は『新世界より』のテーマ
内容をまとめます。
「想像力こそが、すべてを変える」という言葉は、『新世界より』という物語全体のテーマであり、主人公・早季にとっての標語ではないか?ということでした。
つまり攻撃抑制や愧死機構に頼らない人類を目指す、革命的な主人公のモットー。
こう聞くと、標語がかなり挑戦的なイメージに変化したのではないでしょうか?
私自身最初読んだときは意味が分からず、想像力=呪力を使うことかな?想像力が大事そうだもんねと何となく想像していましたが、そうではないようですね。
想像力とは「他者の痛みを想像する力」。
つらい過去を経ても未だ想像力を信じている早季は、主人公らしい主人公だなと思います。

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