『星の王子さま』で、王子さまは「羊の絵を描いて」とパイロットへお願いします。
一見子どもらしいお願いですが、「羊」には愛や戦争に対する比喩が詰まっているのでは?という説もあり……
この記事では
- 王子さまはなぜ羊が欲しいのか?
- 羊には暗に込められた意味があるのか?
を分かりやすく解説していきます。
星の王子さまと羊のエピソード

まずは『星の王子さま』における、『羊』のエピソード部分だけを振り返ってみましょう。
サハラ砂漠で出会った王子さまとパイロット。
王子さまはぼくに「羊の絵を描いて」と頼みますが、描かれた羊を見て「病気の羊は嫌だ」とか「これは羊じゃなくてヤギだ」と何度も文句をつけてきます。
腹が立ったパイロットは「箱の絵」を描き、「この中に羊が入っている」と言いました。
すると王子さまは大喜びします。
この、「想像力と純粋さを持って目に見えないものを見る」という行為は、『星の王子さま』の物語テーマ。
(先に『象を飲むウワバミの絵』で示されています)
そしてその後パイロットは羊に口輪も描いてあげますが、王子さまが星に帰った後、「口輪に革ひもをつけるのを忘れていた」と気づきます。
羊が革ひもでつながれていないせいで、王子さまの大切なバラを食べてしまったら……
羊がバラを食べたか食べないかで、宇宙全体の意味が変わってしまうとパイロットは考えます。
パイロットは目に見えない大切なものを想像しているのです。
王子さまが羊を欲しがった理由

王子さまが羊を欲しがった理由は、「羊に星に生えるバオバブの芽を食べさせるため」です。
バオバブは大木に育つと、小さな星を壊してしまう危険な存在です。
「怠惰をせず悪い芽は小さい内に摘み取ろう」という教訓も与えてくれます。
しかし言ってしまえばそれは、今まで王子さまが手作業でやれていたことなのです。
なぜ羊にやらせたいのか?
もしかしたら、仕事に割いていた時間をバラに回してあげる為ではないのでしょうか?
星に帰るにしても、より自分たちの仲が上手くいくようにできることはやっておきたい……
「仕事を効率化してかかる時間を少なくし、妻に時間を割きたい」みたいなものでしょうか?
羊はそんな王子さまの創意工夫から必要とされたのかもしれません。
王子さまは創意工夫せず寝られない大人(点灯夫)をみています▼
星の王子さまの『六人の大人』を考察|王様から地理学者まで
羊とヤギの宗教的な違い

『星の王子さま』の作者・サン=テグジュペリの母親は、敬虔なカトリック信者でした。
ですので、作中にもキリスト教的な考えが混ざっている可能性があります。
例えば王子さまは
これはヒツジじゃない、ヤギだよ。
角があるじゃないか。
とクレームを出していますが、
キリスト教において羊とヤギは真逆の意味を持ちます。
- 羊 … 「従順な信者」「神に従う人々」
- ヤギ … 「神に背く者」「罪人」
これは羊とヤギの元々の性質…「羊は群れで行動する傾向が強く、逆にヤギは個体行動が目立つ」性質が元になっているそうです。
聖書の中では
- 神の子羊=イエス・キリスト
- さ迷える子羊=人間
- ヤギ=悪魔や反抗の象徴
と表現されたりもします。
なるほど、これを知っていれば確かに羊とヤギの違いは大きなものです。
悪や背信のイメージが強ければ、花を食べてしまう危険性も想像してしまうでしょう。
王子さまはバラのために、従順な「羊」が欲しかったのです。
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ドン・キホーテのエピソードを暗喩?

ヒツジとバラがやってきた戦いに意味がないって言うの?
作中にこのような言葉があります。
これは分かりやすく単数で訳されていますが、原作はどちらも「ヒツジたち」「バラたち」と複数形だとか。
だとするとこれは
「軍隊と自分たち(フランス国民)がやってきた戦いに意味がないって言うの?」
という、当時の戦争に対する暗喩かもしれません。
『ドン・キホーテ』の物語を知っていますか?
騎士道物語を読みすぎて現実と空想の区別がつかなくなった男「アロンソ・キハーノ」が、反対方向からくる羊の群れを軍隊だと勘違いするエピソードがあります。
羊たち=軍隊はここから来ているのでは?ということです。
だとすると、蔑ろにされて王子さまが怒るのは当然のことと言えますね。
口輪の革ヒモを忘れた理由

物語の最後、パイロットは大切なことを思い出します。
王子さまのために羊の口輪を描いたものの、それを締める革ヒモを描き忘れていたのです。
ヒモがなければ口輪は機能せず、羊は花を食べてしまうかもしれません。
なぜそんな大切なことを、二人して忘れたのでしょうか……?
これには理由があったとする説があります。
この当時、サン=テグジュペリの故郷フランスは、ナチス・ドイツによる抑圧を受けていました。
なので革ヒモというもので「自由を縛ることへの抵抗」があったのではないか……という説です。
口輪をし、紐でつないでしまえば、行動の自由を奪うことになります。
創作であろうとそんなことはしたくなかった……だからこそ、このような展開になったのかもしれません。
まとめ・参考文献
この記事を整理すると――
- 羊のエピソードは「見えない大切なものを信じる心」を象徴している
- 王子さまが羊を欲しがったのは、バオバブの芽を食べさせるため、そしてバラに時間をかけるため
- キリスト教では「羊=従順な信者」「ヤギ=背く者」という宗教的な対比がある
- 羊の群れを軍隊と勘違いする『ドン・キホーテ』のエピソードと重ねて読むこともできる
- 口輪の革ひもを描き忘れたのは「自由を縛ること」への抵抗の暗喩とも解釈できる
参考文献▼
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