松下龍之介さん著作『一次元の挿し木』読了しました!
最寄りの本屋の人気ランキング1位につられて買ったのですが、
人骨から始まる推理&サスペンス!謎めく美少女の正体は!?という感じでこれは面白い…!
専門的な内容も含まれるのに、誰が善で悪なのか分からない展開に、続きが気になり続ける良作でした。
この記事ではネタバレを含みつつ相関図(登場人物)解説、感想、タイトルの意味など考察していきます。
簡単なあらすじ

愛する義理の妹「紫陽」が行方不明になり、葬式が行われた。
受け入れられない大学院生の「悠」。
ところが所属する研究室に送られてきた、200年前の人骨のDNAがなぜか紫陽と一致する。
混乱のまま指導教官の元に向かった悠。しかし指導教官である「石見崎」は殺されておりーー
葬式で声をかけてきた、石見崎の姪「唯」と一緒に、悠は紫陽の影を追い求める。
インドの「ループクンド湖」、宗教団体「樹木の会」、殺人鬼「牛尾」、謎めく美少女「紫陽」……
その真相とはーー?
登場人物(※ネタバレ相関図)

すみません、牛男でなく牛尾です。
記者や警察は大した役割がなかったので省いています。
紫陽(しはる)の正体は?

「しいちゃんにそのつもりはなかった。彼女は最初から自らの運命をわかっていて、その先に見える地獄に、一人で臨むつもりでした」
悠(はるか)の義理の妹・紫陽(しはる)。
ミステリアスで確実に何かを隠している行方不明美少女、その正体は…
ルーククンド湖の白骨死体の細胞に手を加え、悠の母親に移植して生み出されたクローン人間でした。
(ということは、実の兄妹と言うことになるのか…?)
もう意味が分かりませんね。
そんな人間が生み出された理由は、
- 宗教団体「樹木の会」の思惑(教祖の遺言)
- 仙波たち研究員の探求心
が合致したから。
しかし京一は樹木の会に「紫陽は死んだ」と伝え、存在を隠していました。
また、紫陽には遺伝子上の欠陥も。
いずれ衰弱し醜くなると知った紫陽は、愛する悠の元から姿を消し、真理(唯)の元で過ごします。
脳は生きてるのに体が支配できない紫陽。
ところが最後京一に投与された薬が効き、奇跡的に動けるようになった彼女は…
自分の意志で「樹木の会」のイコン(シンボル)となることを選択。
ばかばかしいと思いながらも、悠と真理が幸せなことに満足しながら役割をこなしています。
牛尾は何者?

この物語の一番ヤベエ奴「牛尾」。苛性ソーダが相棒の殺人鬼です。
牛革の山高帽をかぶる大男。
彼に殺されたのは
- インド人科学者・アモール
- 記者・小野寺
- 記者・平間
- 石見崎明彦
- 七瀬京一
- 警察官
他多数。
彼は「樹木の会」の既に亡き教祖・真鍋宗次郎から作られたクローン体でした。
行動目的は「日江製薬」(現在は京一の会社)が行ってきた、違法な研究の証拠・証人を消し去る事。
それは「日江製薬」と協力関係にあった「樹木の会」を守ることにもつながります。
「物心ついたときから、生物を見るとどうやってそれを壊そうかと考える」
彼が死なずして物語のハッピーエンドはあり得なかった凶悪な人物でした。
タイトル「一次元の挿し木」の意味を考察

さて、最後に「どういう意味だ?」と思ったのがタイトル。
意味にあたりがついたので解説していきます。
挿し木のほうは「紫陽花の挿し木」が物語上のカギになっていますが…
※挿し木…茎から切って土に刺すと、根を生やして新しく育つ。無性繁殖法とも言う。
「一次元の」とはどういうことなのか?
まず一次元は「長さだけしかない世界」のことです。物語のカギになる「DNA情報」も一次元情報に当たります。
→ A ― T ― G ― C ― A ― A ― T ― G …
こういうものですね。
つまり「一次元の挿し木」=「DNA情報に生命を与える」という意味だと思われます。
生き物の世界=三次元の空間。つまり通常あり得ないこと。
それなのに成功してしまったクローン人間が「紫陽」でした。
つまりタイトルの「一次元の挿し木」とは紫陽のこと。
異常な経緯で生み出された彼女はどういう気持ちで生きているのか?
この物語の最後は彼女の独白で終わります。
ちなみに表紙の画像も、紫陽花に隠された骸骨の挿し木…センスが凄い……!!
感想

どんどん人が死ぬし、生きたまま人を溶かすしのショッキングなストーリー。
牛尾が苛性ソーダを持っていると理解して、怯えたまま溶かされた京一……ここ一番のエグさだと思います。
とはいえ京一は記者の情報を牛尾に流したりしているので、悠から見ると善だけど、死んだ記者たちからすると悪。
利己的なキャラクター達の生きざまが光る作品ですね。
それで言うと、女性陣のキャラクターも良き。
唯…もとい真理には方舟の麻衣さん▼的な土壇場での行動力を感じるし、
「方舟」ネタバレ解説|夕木春央のミステリー
マッドサイエンティスト風味の仙波佳代子もいい味出してました。
彼女が遺伝子学者になった理由の、奇形のルドベキアとはこんな感じでしょうか?

そして美青年主人公・悠。
もしかしたら一つの失言さえなければ、紫陽はボロボロになりながらも悠の元に居続けたかもしれません。
「綺麗な顔や髪、そして賢さが無ければ紫陽じゃない」
冗談で言ったこの発言が、いずれすべて失うと知っていた紫陽をどこまで傷つけたのか…
ここは間違いなく「どんな君になっても愛してる」が正解でした。
とにかく人が次々死ぬこともあり、飽きが来ないという点で本当に良作。
ドラマ化とかみたいな―と思います。
是非読んでみてください!
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