「映画でもあるよね。殺されそうな人が、自分には恋人がいるとか、家族がいるとかって命乞いするシーン。家族とか恋人がいなかったら殺していいのかって話だよね。……」
この記事では夕木春央さんのミステリー、『方舟』について
- あらすじ・登場人物
- 出てくる難しい単語
- 何故「つまらない」という意見があるのか
- 印象的なシーン5選
をネタバレ有りでお伝えしていきます。
2023年本屋大賞7位。個人的にはノミネート作の中で一番好きな作品でした✨
目次
あらすじ
9人のうち、死んでもいいのは、ーー死ぬべきなのは誰か?
大学時代の友達と従兄と一緒に山奥の地下建築を訪れた柊一は、偶然出会った三人家族とともに地下建築内で夜を越すことになる。
しかし翌日の明け方に地震が発生。
扉が岩でふさがれて閉じ込められ、
地盤への異変が起こったことで水没の予兆も。
しかし地下建築にはだれか一人を犠牲にすれば脱出できる仕掛けがあったーーー
そんな矢先に起こる殺人。
生贄には、その犯人がなるべきだ。
タイムリミットまでおよそ1週間。
それまでに、僕らは殺人犯を見つけなければならない。
★週刊文春ミステリーベスト10…国内部門【1位】
★MRC大賞2022…【1位】
※MRC(メフィストリーダーズクラブ)……謎を愛する本好きのための読書クラブ
MRC大賞で、2位と3倍以上の票差をつけて圧勝しました!!
登場人物
越野柊一……主人公。翔太郎に複雑な感情を持ち、麻衣に隆平について相談を受けている。
篠田翔太郎……探偵役の謎多き人物。いとこである柊一に、揉め事の仲裁役として呼ばれた。
西村裕哉……地下建築に行こうと言い出した言い出しっぺ。
絲山隆平……麻衣と結婚したが、上手くは言っていない。
絲山麻衣……隆平と結婚したが、同上。
高津花……ハッキリモノを言う。
野内さやか……丁寧語を使う。
※翔太郎以外は学生時代、登山サークル仲間
矢崎幸太郎……電気工事士
矢崎弘子……幸太郎の妻
矢崎隼斗……高校生の息子
※矢崎一家は道に迷っていた為、裕哉たちに連れられてきた。
呼ぶのはだいたい下の名前。丁度十人です。
調べた単語
蓋然性(がいぜんせい)
対義語は「必然性」。
物事や現象が起こることが、一定以上予測されるという意味。
可能性が高め……くらいの意味かな?
茫漠(ぼうばく)
ぼうっとしていて、はっきりしないさま
ヒロイック
勇ましいさま。雄々しいさま。英雄的。
デジタル大辞泉より
「ヒロイックな最期」
アシッド・フォーク
クスリでトリップしているような雰囲気のフォーク。(電気楽器を使わない音楽)
ドラッグカルチャーが反映されている。
何故「つまらない」という意見があるのか
「方舟」で検索すると、第二検索ワードに「つまらない」という言葉が出てきます。
これについて個人的な考察は、以下の三つです。
キャラが弱い
10人も居る登場人物。
状況も相まって、各々の心情が分かりにくいです。
まあ、余計なこと言ったら犯人に狙われる可能性が高まりそう……これは仕方ないですね。
故に、
- なぜ柊一は麻衣が好きなのか?
- 犯人がここまで生に執着する理由は?
このあたりに納得いかない方もいるようです。
人物描写が偏ると展開がバレちゃうから、仕方ないと言えば仕方ないんですが……
人情系が選ばれやすい本屋大賞で7位なのは、このあたりが理由かもしれません。
巻き上げ機の仕組みが分かりにくい
推理小説で物理トリックがピンとこないことはありませんか?
これもその一種です。
肝である「一人が犠牲になれば他の人が脱出できる」という物理的仕掛け。
ここのイメージが難しいです。
もう少し親切なイメージ図があれば、物語にのめりこめるのではないかな?と思います。
探偵役が格好良くない
この作品には分かりやすい探偵役「篠田翔太郎」が登場します。
ミステリアスで、今回特別に呼ばれたサークル仲間外の人間。
常に落ち着いている頭の良い存在……
こういうタイプが居れば、つい「恰好良さ」を求めてしまいますよね。
推理でバシッと決めてもらったり、混乱する場を落ち着けてくれたり…
ところがこの探偵役、発言権が強いのをいいことに、終盤ちょっと耳を疑うようなことを言ったりします。
その時の残念感に、少し不満を感じる人がいると思われます。
印象的なシーン5選【ネタバレ注意】
哲学的に、現実的に考えさせられる場面、ぞわっとくる場面…
個人的に印象的なシーンを5つご紹介します。
一番嫌な死に方って何?
『方舟』の雰囲気も相まって、【嫌な死に方】の話題になります。
「思ったんだけど、もし、嫌な死に方ランキング作ったら、首を絞められたり、刺されたりして殺されるのって、意外とあんま上位じゃないんじゃない?もっとキツいの、いくらでもありそう」
……この文章、後で非常に考えさせられることになります。
じわじわ死んでいくよりひと思いに殺された方がいいのか?
痛み・苦しみが長引くのは嫌ですよね。
自分なら何を望むか考えてみたことはありますか?
【秀逸】日常が突然破壊される描写
デイパックの中身からは、彼の身体よりよっぽど強く、裕哉の人生の残り香がした。それがこれから何十年か続くことを彼自身疑っていなかったのが、持ち物を見れば明らかだった。
殺害された裕哉。
日常が一瞬で破壊された痕跡。
時に死体よりも残酷な”モノ”の描写が本当に上手な作者です。
【哲学】愛されていない人が死ぬべき?
「映画でもあるよね。殺されそうな人が、自分には恋人がいるとか、家族がいるとかって命乞いするシーン。家族とか恋人がいなかったら殺していいのかって話だよね。……」
麻衣のセリフです。
- 「家族が居るから助けて」
- 「命は平等です」
この二つの主張が相容れないことを初めて意識しました。
命が平等なら、天涯孤独だろうと家族や恋人が居ようと関係ないはず。
涙を誘う命乞いの言葉に、初めてひっかかりを覚えた見解でした。
生贄の説得
「麻衣さん。俺は、君が、極限状態のときに誰よりも理性的な判断ができることを信じている」
異様な光景だった。
(略)
麻衣に懇願するみんなの姿は、あまりにも醜悪だった。
自分の保身のために、慎重な姿勢で犯人に媚びる異様なシーンです。
誰も……夫の隆平も、探偵役の翔太郎も例外ではありません。
ちょっと残念感がありましたね。
柊一は揺れます。こうなった以上もう横恋慕ではなく、一緒に小部屋で二人で死を待つ選択肢が与えられました。
しかし……取ったのは自分の命。
『何も言わない』という、ズルい選択。
あなたならどうしますか?
全てがミスリード
ーー実はね、さっきの翔太郎さんの推理には、間違ってることがあるんだ。それを、柊一くんには言っておきたかったの。
決別した後、麻衣から柊一にトランシーバーアプリで連絡があります。
(登山サークル時に使っていたもの)
……何?
簡単に言うと、こういうことなんだ。
今から地下で死ぬことになるのは、私じゃなくて、柊一くんたちなの。
ここで、全てがひっくりかえります。
土砂で埋まったのは非常口ではなく出入口。
麻衣は柊一より先にモニターを確認し、映像を入れ替えていました。
つまり、生き残れるのは元々一人だけーーーー…
彼女は、誰を何人殺しても構わなかった。なぜなら、どうせみんな死ぬからだ。
(略)
僕らの中でただ一人、麻衣は啓示を受けていた。
箱舟の『啓示』。麻衣はただ一人生き残るすべを与えられて完遂しました。
誰にでも実行できるようなものではない、精神力と非情さが試されるモノ。
一人の人間の生き汚い生への執着、狡猾さ、されど神々しさにゾクリとしました。
死ぬのは残りの6人。
ーーーじゃあさ、みんな一番嫌な死に方ってなに?
まとめ
雰囲気溢れる文章に、ひっくり返されるミスリード。
最高でした!
読後色々と読み直したり、続きを想像してしまいます。
- 麻衣が方舟を出た後どうなるのか?
- 残り6人のシャットダウンされた絶望と恐怖は?
描かれなかったその後に思いをはせ、読了した後も2・3日引きずりました。
麻衣のその後についてはこちらもチェック▼
小説『十戒』ネタバレ図解解説!方舟の続編なの?つながりはある?
このゾクゾク感……是非マダーミステリーとしてゲーム化してほしい!
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おすすめですので、是非読んでみてください。
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