斜線堂有紀著作『恋に至る病』考察記事です。
について考察していきます。
【考察】「やっぱりそうか」の意味は?

景は善名さんにデザインナイフで刺された後、けたたましく笑い
「やっぱりそうか」
と言いました。
個人的な解釈ですが、これは「やっぱり自分は刺されて終わるんだ」ということだと感じました。
そうであれば、景が「ブルーモルフォを最後までやり遂げる」と口にし、
「最後とは何か?」と聞かれたら口をつぐんだ177ページ。
この答えが、「自分はプレイヤーに殺されるだろうけど、それを聞いたら宮嶺は止めるから言えない」…ということになります。
むしろ、今まで犯罪沙汰にならなかったことが凄いですよね。
自暴自棄になる可能性のある「死にたい人間」に、美少女が一人で会う……
しかも会う時点で「唯一自分を知ってくれる人物」として、見た目関係なく特別になっているわけですから。
「一緒に死んでくれ」と言われたことくらいありそうですよね……。
当然、景は防犯に細心の注意を払っていたことでしょう。
実際、元5年2組の友達「緒野江美」とメッセージのやり取りをするときは、身バレしないように敬語にしていた節があります。
ですが直接の知り合いである善名は……
予想外の行動をとる「死にたい人間」。そういう人物に目を付けられても、景はやましい所があるため警察に相談できません。
だから笑ってしまう程予想通り。
けれど本当は「化け物から普通の女の子」に戻る終わりを望んでいたのかもしれません。
「宮嶺を傷つけられてからずっと消えない炎がある」と言っていた景。
これは好きな人に「死にたい」とまで言わせたイジメを、見て見ぬ振りした人間への復讐の炎。
ですが「いつか傷は治ると思ってる」とも言っていました。
イジメを見て傷ついた自分の心がいつか癒え、化け物から普通の女の子に戻れたら……
そうすればブルーモルフォを止めて、普通のカップルとして旅行にでも。
そんな宮嶺と同じ夢を、景も抱いていた可能性があるのです。
ラスト4行『消しゴム』を考察

僕の目の前には、透明な袋に入った消しゴムが置かれている。半分ほど使ってあるそれには、滲んだインク汚れが付着していた。何も知らない人が見れば、それが何かは分からないだろう。
けれど僕は、それが自分の名前であることを知っている。
物語ラスト四行のこの文章。
これは、イジメの最初に「宮嶺の筆箱から根津原が盗んだ消しゴム」を、景が取り返していた…ということです。
そしてこのことを宮嶺が知ったのは、6・7年たった景が刺された後。
救急車を呼ぼうと、景のポケットからスマホを抜き取った時です。
その時、ポケットから消しゴムが落ちました。
ここから
- 消しゴムを取り返したにもかかわらず、宮嶺に言わずに持ち続けた
- 消しゴムは家が火事で燃えることを予想して、家から持ち運んできた大切なもの
ということが考えられます。
なぜ言わなかったのでしょうか?
当時の5年2組には、「好きな人から消しゴムをもらえば両想い」というおまじないが流行っていました。
宮嶺に恋をしていた景は、これに頼った可能性があります。
もし、この消しゴムを宮嶺の心理的掌握に使おうとしたならば、もっと前に「もらっていい?」的な色仕掛けをやっていたでしょう。
けれど言わずに、密かにポケットに入れていた景。
ラスト四行は、死しても尚残った景がくれた愛。それを自分だけが理解している喜び……
そんな宮嶺の幸せが描かれています。
15秒後の物語について

本編15秒後の物語がネット上に公開されているのを知っていますか?
転んだふりをした宮嶺が、ビニール袋に入った消しゴムを奪い、景の遺骨に見立てて食べる……
…という……
かなりサイコパスな最後が描かれています。
「好きな人を食べて自分のものにしたい」というカ〇バリズムが性癖の人間がたまーーーーーにいますが、宮嶺はその扉を開けている感じですね。
捨てられるかもしれない思い出の品を、自分の中に入れた宮嶺。
彼女の愛情の欠片を独り占めする、エゴイストな主人公です。
【考察】景が凧を隠した理由は?

すべての始まりとも言える、小学五年生の校外学習時の「凧」。
景の自然公園での不可思議な行動をまとめるとこんな感じです。
- 少女の凧を隠し、
- 泣いている少女を(宮嶺の前で)慰めて笑顔にし、
- 凧を見つけたふりをして、公園の事務所に届けようとした。
- しかし凧を取ろうとして整備中の滑り台に上り、落ちた。(右目に傷が残るほどの怪我)
- 途中、宮嶺が見ていたことに驚いた反応をしながらも、「ずっと前から気づいてた」と矛盾することを言っている。
いったい何がしたかったのでしょうか?
これは「宮嶺に好かれたくて良い子を演じたけど、落ちて怪我したのは予想外だった」が正解だと考えられます。
まず、こんな回りくどいことをして「宮嶺と少女どちらの好意がほしかったのか?」と言う部分。
少女の好意が欲しいなら、一緒に凧を探してあげて…という方法もあったはずです。
しかし景は凧を見つけても「少女を探して届けよう」ではなく、「公園の事務所に届けよう」と言いました。
意識しているのは「宮嶺の目」。紛れもなく「宮嶺に素敵な人だと思われたい」からとった行動です。
しかし、「宮嶺に罪悪感を与える為、わざと怪我をした」というのは、流石に無いでしょう。
- どこにどんな怪我をするか、傷跡が残るのかを正確に予想することは不可能
- 「顔に怪我」は、失うもののほうが大きいと分かるはず(可愛い顔をしている自覚がありそうなので)
- 景が落ちた時、宮嶺も近くにいた。最悪宮嶺も巻き込んで怪我をさせ、嫌われる可能性がある
そもそも景は、凧を隠すために一度滑り台に上っています。その時は大丈夫だったのです。
落ちたのは、宮嶺を振り向いて手すりに体重をかけてしまったから。
相当驚いたことでしょう。
この後自分の怪我を「気持ち悪い」と表現し、学校に行けないと考えていた景。これは本心だと思われます。
【考察】いじめを景が指示した説について

最後に私が途中で抱いた疑問…
「根津原が行っていたイジメを、景が指示していた説はないか?」について考えてみましょう。
実際「宮嶺に好きになってもらうため、イベントとしてイジメを起こす」というのは無くはない気がしてしまいます。
この件より前の「凧の件」が自演だった為、尚更です。
その場合、思考回路はこんな感じ。
- 根津原に虐められた宮嶺を自分が助ければ、自分の事をもっと好きになってくれるかも
- 自分のヒーローになってくれると言った宮嶺を、わざと跳び箱に閉じ込められて、助けに来てくれるか試したい
- 奥手な宮嶺を、根津原というライバルを出して焦らせよう
実際、上履きの出来事は「景が隠していたのでは?」と疑ってしまいましたし、
小学5年生の根津原がブログを作ったという点も、「景なら作れそうだけど…」なんて考えてしまいました。
しかし、やはりこれは疑いすぎだと結論付けます。
理由は、ブルーモルフォが「イジメへの復讐心」から生まれたものだから。
「自分の大切な人を傷つけられた」……これを見て見ぬ振りした周囲への復讐心がブルーモルフォになりました。
これが「自分が傷つけた」ならおかしなことです。
やはり根津原主犯のイジメがあっての復讐心。根津原が恋…信望に近いモノを景に抱いた結果であり、
景の自演ではないでしょう。
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