この記事では我孫子武丸著作『殺戮にいたる病』について、ネタバレありであらすじ解説していきます!
(読了した方推奨です。ネタバレNGの人は、ここで読むのを止めて読んでください▼)
最後の一文でひっくり返る結末…信一死亡や容子の謎については勿論、
何故自分が騙されたのか?散りばめられたトリック・伏線の意味も分かりやすく解説していきます。
目次
最後の一文でネタ晴らしされるコレ
このミステリーの肝は連続殺人犯は「蒲生稔」という答えが分かった前提で
相関図がこう↓だと思っていたけど…

実はこうだった↓というものです。

息子は「信一」だと死んだ後に発覚

作中何度も語り手となる「雅子」の夫が「稔」でした。
つまり雅子が疑っていた息子は白…どころか、「父親の殺人を止めようとして殺された」可哀そうな息子でした。
名前は信一。これが分かるのは、信一が父・稔に殺された後の朝刊です。
なぜ雅子が「息子が殺人をしている」と考えたのか?おさらいしてみると
- 信一は父が殺人していることに気づき、その証拠(遺体の一部やビデオテープ)を確認している。そしてその場面を母(雅子)に見られている。(どう見ても怪しい)
- 殺人現場で見かけられた白いカローラを、稔も信一も利用している。
何より、「父が殺人しているのではないか?」「自分がどうにかしないと…母にバレないように止めないと…」と思い悩む信一は、傍目からみても挙動不審だったのでしょう。
母親から容疑を向けられ、父親から殺され…不幸すぎる子供でした。
【真相のみで】あらすじネタバレ解説

妻に先立たれた元刑事の「樋口」は、
ご飯などを作りに来てくれていた看護婦…島崎敏子さん(29歳)が、連続殺人犯に殺されたという悲報を受ける。
自分の家から帰る途中にーーー……
犯人は遺体愛好家と思われ、まだ殺人を続けるかもしれない。
自分のようなおいぼれが死ねばよかったのに。
罪悪感を抑えきれない樋口は、敏子の妹「かおる」と、新聞記者「齋藤」と協力し、犯人捜しに動く。
かおるは敏子とそっくりなので、おびき寄せられるかもしれない。
一方、ごく普通の専業主婦「雅子」。
彼女は息子「信一」の部屋のゴミ箱から血が貯まったビニール袋を見つけ、息子が殺人を犯したかもしれないと疑っていた。
しかしそれは見当違い。
信一は、父が殺人をしている証拠を家の各所で見つけて確認し、一人思い悩んでいたのだ。
本当の連続殺人犯は、雅子の夫、そして信一の父である「稔」だった。
大学教授である稔は、大学の食堂でナンパした大学生「江藤佐智子」を衝動的に殺害した。
そしてそれを「真実の愛」と名付け、一度知ってしまったがゆえに飢えていくことになる。
連続殺人を犯し、どんどん過激化していくーー……
結末

稔は女性4人を殺人し、遂にかおるに辿り着いた。
一度殺した敏子に似た女性…敏子が生き返ったと勘違いをおこした。
稔はかおるをホテルまで連れて行ったが、そこで父を尾行していた信一が乱入したことで、
稔は信一を殺して逃走した。
そして、自分が殺害した4人の共通点についに気づく。
愛する母の面影がある女性ばかりだということに。
樋口は連続殺人犯が、ホテルで死んでいた信一だと勘違いした。
そして信一を追ってきて、息子の死に絶望した雅子を家まで送り届けた。
しかし、家内から悲鳴が聞こえて警官と一緒に乗り込むと―…
稔が実の母を殺し、その遺体を犯していた。
稔は逮捕の際全く抵抗せず、容疑を認めている。
【考察】なぜ騙されるのか?散りばめられた叙述トリック

雅子視点があるにも関わらず、「稔は雅子の夫ではなく息子」だとなぜ思い込んでしまうのか?
その理由は「これでもか!」という程仕掛けられた叙述トリックにあります。
稔=大学生だとイメージさせている

個人的に一番上手いと思うのは、
稔=大学生だとイメージさせているということ。
実際には稔は大学教授で43歳なわけですが…
- 大学の食堂でナンパして成功している
- 雅子から「稔の大学名が」という言葉がでてくる
- 高校時代の性体験の回想の後、現在の大学での出来事に移り変わる(ちょっと前の体験談ぽく聞こえる)
これを見るとうっかり「稔は大学の学生なのね」と思いこんでしまいます。
稔が試験のために大学へ出かけたのが昼食を終えてからだったので、雅子は二時頃になって息子の部屋へ入った。
上のような混同させる独白も秀逸です。
×息子が試験を受けに出かけてから、息子の部屋に入った
〇夫が大学講師の仕事に行ってから、息子の部屋に入った
ということです。
稔の母親「容子」の叙述トリック

加えて「稔は母親と住んでいる」のは察せられるけれど、
雅子視点で「義母(容子)との同居」がハッキリ描かれていなかった
というのも叙述トリックです。
しかし雅子視点をよく読めば、伏線は貼られていました。
- 生きている義母の話は出てこないが、同居していた義父の死については書かれている
- 「元々夫が両親と住んでいた一件家に住んでいる」とは書かれている
これをよく考えれば、「義父は死んだけど義母はまだ生きていて、一緒に住んでるんじゃない?」という推測はできるというわけです。
その義母が容子。
容子の存在を希薄に描くことが、「息子が雅子に性愛を抱いている」という誤解を生むトリックになっています。
【感想】グロくて読むのやめようかと思った…

実はこの作品、グロすぎて途中で読むのを止めようかと検討しました。
稔の殺人現場が詳細に描かれてしまう、絶対に映画やドラマにはできない本作。
子宮だの女性器だの……えぇグロすぎる苦手…止めようかなと。
でもそこで購入したキッカケを思い出し、あれ…?と思ったんです。
「この作品、Amazonでレビュー数が多くて評価も高かったぞ」と。
まさかグロ要素が評価されているわけでもあるまい。
私はレビューでネタバレを読んで、叙述トリックがあると知り……
そこに興味を惹かれたので、再度読み進めました。
面白かった……!読んでよかった……!
稔=夫ですよのネタバレ読んで読み進めたのは、かなり邪道だとは思うのですが。
それでも「なるほどこういう手法もあるのか…!」と感動すら覚えました。
やっぱりどんでん返し系好きです。良いミステリーでした。
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まとめ
- 本作の最大の仕掛けは「稔=夫」であり、読者は意図的に「稔=息子」と思い込まされる叙述トリックに騙される。
- 信一は父の殺人を止めようとして命を落とした悲劇の被害者で、母からも疑われてしまった不幸な存在。
- 稔は母・容子への倒錯した愛を抱き、母の面影を持つ女性たちを連続殺人していった。
- 作中には稔を大学生に錯覚させる描写や、容子の存在を薄める仕掛けが散りばめられており、読者は自然と誤解してしまう。
- 殺人描写はグロテスクで衝撃的だが、叙述トリックの完成度とどんでん返しの鮮烈さが評価され、名作ミステリーとして高く支持されている。
- 一度読み終えると伏線の巧妙さに気づき、二度読みしたくなる構成となっている。
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