背筋さん著作『近畿地方のある場所について』読了しました!
聴く読書で聞いて、その後映画前に読み直そうということで書籍買って読んだんですよね。
それをやろうと思うくらいには怖面白い話でした。
ただ、途中で「こんな話だったっけ…?」と違和感を感じて調べたら、どうやら文庫版と単行本版で内容が違うらしいんです。
ですよね。先に読んだ(聴いた)単行本版▼のほうが怖かった気がしますもん。
何が違うのかというと、主に人間ドラマパートが違ったと思います。下記のような理由があるそうですが…なるほどねと思いました。(※ネタバレ含むので折りたたんでいます)
単行本では「主人公=背筋(著者)と同一人物で女性」という仕掛けがありました。
けれど本作が有名になり、顔出しでインタビューに答えた結果、設定として使えなくなったようです。
ということで、この記事は文庫本ver.のネタバレ解説記事であることをご了承ください。
この先ガッツリネタバレが含まれますのでご注意ください。
目次
主な登場人物まとめ
小澤雄也…推定46歳。副編集長。彼の視点で物語が進む。
瀬野千尋……小澤と同い年。かなり最後の方まで伏せられるが、小澤と夫婦だったこともあった。
しかし小澤は物語終盤まで瀬野の家庭事情を知らなかった。
この二人のみ分かっていれば、後は大体分かるかなという感じです。
ネタバレあらすじ解説

出版社に勤めて24年の小澤雄也は、不定期刊行のホラー雑誌「別冊Q」作成のために、離婚した外注ライター・瀬野千尋に連絡を取った。
瀬野は引き受けてくれたが、最後の仕事にしようと考えていると言う。
瀬野は「Q」が月刊誌だったころのバックナンバーを漁り、●●●●●(近畿地方のとある地域一帯)のネタを複数持ってきた。
- 実録!奈良県行方不明少女に新事実か?(1989年)
(小学校帰りに行方不明になったKちゃん。TV企画で捜索された際、霊能力者がKちゃんの居場所として●●●●●一帯を示した。そのあたりでは、奇妙な女児の目撃体験が相次いでいるらしい) - 林間学校集団ヒステリー事件の真相(2006年)
(●●●●●へ林間学校に行った中学生たちが、宿舎のベランダから「おーい」と繰り返す白い巨人を見た話。直接話した女の子は、おかしくなって自殺した) - おかしな書き込み(2017年)
(アダルトサイトに「お山にきませんか。かきもあります」「こしいれせよ」と言う奇妙な書き込みがあり、その住所が●●●●●の神社だったという話)
この三つには「山」と「かき」、「お嫁さん(こしいれ)」が何故か共通しており、場所が「山」に集中している……
これを主題として追加で話を集め、まとめることとなった。
●●●●●とは?

「近畿地方のある場所」。
名前は伏せられているが、トンネル・ダム・廃墟などが点在し、現在では有名な心霊スポットとなっている。
(仮想地図を作ってくれている人も▼)
3つの謎に収束

読者から寄せられた話、ネットで拾った話、取材した話等を総合すると
- 「ましろさま」という山から女を呼び寄せるもの
- ジャンプ女
- 追いかけてくる男の子
この三つの怪異にいきつく。
ましろさまは長くなるので後述するが、
この「男の子」が自殺した瀬野の弟「了くん」で、
「ジャンプ女」が「ましろさま」を祀る宗教にハマっていた瀬野の母だと判明する。
「ジャンプ」は了くんが公園の木で首を吊った際、母が必死にジャンプして降ろそうとしていた所が目撃されており……
このショッキングな現場を見ていた小学生等が、七不思議ならぬ九不思議に組み込んだりして話が広まったのだろうと思われる。
ラストは瀬野の家族事情に終結

家の事情で一人離れて暮らしていた瀬野は、了が虐められる原因となった「母がのめり込んでいた宗教」を軽蔑していた。
しかしその母も死に、遺されたのは宗教色に染まった実家。
その後宗教団体がどうなったのか気になった瀬野は、特集を組んでいた「Q」の編集部に連絡を取る。
そして成り行きでライターとなる。
仕事にかこつけて宗教団体や、自分の家族がモデルと思われる怪異について調べた瀬野。
母に対する愛情も感じ始め、怪異となっている母や弟を書くことで、彼らを(存在として)生きさせようとした。
さらに小澤と結婚、しかし流産して子供が産めなくなり、捨てられるのが怖くて離婚を切り出した。
………………………もし、了が現れてくれたとしたら、そのときはあなたも一緒に、育ててくれる?家族として。
ふふ。冗談だよ。忘れて。ごめん。
真実を知った小澤は、自分にはまだ見えない「男の子」を探している。
了(あきら)くんの真実

亡くなった瀬野の弟「あきらくん」。怪談になる際は「あきおくん」「あきとくん」とちょっと名前を変えられています。
公園にある高い木で首を吊ったらしいですが、「ならば台がなかったのはなぜか」は謎のままですね。幹に乗って飛び降りた…ということも考えられますが…最悪虐め…の線は考えたくない話です。
ですがどこまで直接的かは置いておき、「虐めが原因で亡くなった」というのは確かでしょう。
「ましろさんに見つかった他の生徒が、あきらくんを身代わりにした」……この時点で虐めですもんね。普段消しゴムとかを身代わり品にしているのに、人名を出したんですから。
そこから「ましろさんに操られて死んだ」のか、「自分で思い詰めて死んだ」のかは、そこまで大差ないような気がします。
人を殺害する怪異となっていることから、人間に対する恨みは深いのかもしれないあきらくん。
ですが、一応「弟の事を広めたかった瀬野の創作話」と言う線も無くはない…かと思います。
ましろさまとは?まさるという男の話

この作品の三大怪異の一つ「ましろさま」。
- 「まっしろさん」「ましらさま」という呼び方もある。
- 山へ誘うモノ。山からは動けず、影響を与えた男性を使って女性を山へ誘い込んでいる。
- 女性を誘う目的は「こしいれせよ」からも分かるように嫁にすること。
- 必要なのは魂だけの可能性が高く、引き寄せた男性・女性をダムに飛び込ませている。
- 人形を身代わりにすれば生き残れる。
- 「まっしろさん」という遊びにもなっており、身代わりにされた猫や了くんは死んでいる。
しかしこの怪異、元は明治のころに生きていた「まさる」という人間の男です。
村で病の母親と苦しい暮らしをしていた「まさる」。
母が死んでからはノイローゼ状態で引きこもり、人形を嫁に見立てて一日中話しかけていたそうです。
そんなまさるを揶揄うように、ある時村人が「柿の木問答」を教えました。
それは「柿の木はあるか?」から始まる男女間の初夜の合言葉。
するとどうしたことか、村中の女に「柿があるからおいで」と言い出したまさる。
さらにまさるの家の近所の女が石で撲殺され、犯人はまさるとされました。
制裁を受けたまさるは石に頭を打ち付けて自殺。
ところがその後、その石に頭を打ち付けて死ぬ女が何人も出ます。
そこで村人たちはまさるを祀り上げ、祟りを鎮めようとしました。
しかしこんな事情を子供に伝えるわけにもいかず、元々存在していた「ましらさま(猿の神)」だと言って祀り続けました。
まさるは今も「家族を作る」ために、女を山に呼び寄せています。
それが「ましらさま」の正体。
ちなみにその厄災を振りまいているのが、「ましらさまの石」。
宗教団体「スピリチュアルスペース」から瀬野の母、マルチ商法の団体に渡っているのが確認されています。
感想

正直読んでいる間は怖すぎてちょっと物音にビビってました。
そしてフィクションと聞いて落ち着きました。フィクションフィクション。
ましら様も怖いですが、ジャンプ女も怖いですね。ついベランダの方見てしまいますもん。カーテン開けたらいるんじゃないかって。
家の周囲に待機しているやつは、本当に嫌ですね。入ってくるのを防げるか、みたいな。
でも読んだことは後悔しませんよ!めっちゃ面白いです。
一つ一つの実体験レポ的なものが一つにつながる、ミステリー好きも楽しめる構成でした。
謎解き要素…と呼べるのかはわかりませんが、ましら様を呼び出す呪文の意味も、別記事で読み解いています。
意味のないひらがなの羅列ではなかったので、こちらも気になった人は是非参考にしてみてください。
この作品映画化もしているわけですが(2025年8月8日公開)、どうやら文庫版と微妙~~に名前が違いますね。
文庫版 | 映画 |
---|---|
小澤雄也 | 小沢悠生 |
瀬野千尋 | 瀬野千紘 |
単行本版を元に作成されているのかな?
だとすると、内容が違う文庫本版は是非合わせて読んでみて欲しいと思います。
つまらないという意見について

ちなみに、調べてみると「近畿地方のある場所について つまらない」という予測変換も出てきます。
この理由を推測するなら
- 文庫本版の場合読後に怖さより人情物語の余韻が強く、そこが期待と違った(もっと恐怖感ある終わりを期待していた)
- 単行本版の場合推理モノとしては微妙なオチで、ラストに不満がある人がいる(ホラー小説なわけですが…)
- ただ単に怖くて読むのを辞めてしまったので評価が低い
などが考えられます。
怖いのが苦手なら文庫本のほうをおすすめします。
フィクションかノンフィクションかについて

かなりリアルなレポ調の話なので「●●●●●」は実在する地名なの?と怖くなった人もいると思います。
ですが、これについては著者の背筋さんが
「フィクションです、むしろ本気に捉える人がいるとは思わなかった」とおっしゃっています。
情報元↓
なのでこの本を読んだからといって、呪われるとか、了くんが見えるようになるとか…そういうことは無いと言うことです。
もしかするとモデル地くらいはあるかもしれませんが……
この記事で紹介した書籍▼
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