宮沢賢治の童話『月夜のでんしんばしら』。
主人公・恭一は、線路脇を歩いている途中に、軍服を着た電信柱の行進に遭遇するという不思議な物語です。
この記事では
- できるだけ簡単なあらすじ
- 分かりにくい部分、この作品のテーマ・伝えたいことを解説
していきます!
目次
簡単にあらすじ
風の強い月夜、恭一は線路脇を歩いていると奇妙な体験をします。
電信柱が会話を交わし、軍歌を歌いながら「北」へ進軍していくのです。
恭一は、その中で指揮を執る電気総長と握手し、会話を交わします。
電気総長は、電気の普及過程で起こったさまざまな出来事に触れながら、電気の威力について誇らしげに語ります。
しかし、列車が近づいてくると、進軍は急に中断。
電気総長は、車内の灯りが消えていることに気付きます。
恭一が止めるのも聞かず、総長は列車の下に潜り込み、灯りをつけてやるのでした。
解説。この物語が伝えたいこととは?
この童話で、賢治はどのようなことを伝えたかったのでしょうか?
分かりにくい箇所の解説と、それを交えたテーマの考察をお伝えします。
いつでも退会できます。
恭一は何をしていたのか?
満月ほど明るくはないものの、九日の月の晩※は、夜道を照らすにはそこそこの明るさを保っています。
(※新月から数えて9日目の状態で、満月ほど明るくはなく、少し欠けた形)
そんな夜、ひとりで線路脇を歩いていた恭一。
時間は午後8時頃。現代では珍しくないかもしれませんが、この時代では、子どもがすでに寝ているような時間です。
にもかかわらず、恭一はなぜか風が吹きつける中、線路際をひとりで歩いています。
この逸脱した行動が何故なのかは明らかになっていません。
酔っていたのか?危険なことをしたいという好奇心なのか?それとも何かに悩んでいたのか?
想像するしかありません。
不思議な体験をする恭一
恭一が歩いている場所には、右手に腕木式のシグナル柱(※)が立っています。
腕木式のシグナル柱(うでぎしきシグナルちゅう)
……鉄道において列車の進行や停止を指示するために使用される信号機の一種。主に蒸気機関車が主流だった時代に使われていました。
このシグナルは、「腕木」と呼ばれる金属製の腕のような部品を上下に動かすことで信号を表示します。
つまり人間が駅舎などでレバーを操作することで現示を変える仕組みで、恭一はこのシグナルの表示が変わったのを見て、電柱たちの行軍を目にします。
信号の変化は人が操作していることを示すため、それを見て現実に戻るはずですが、恭一はそうはなりません。
駅舎の明かりが見えるほど近くにいるにもかかわらず、彼はまるで異界に足を踏み入れたかのように行軍を目撃しているのです。
この物語のテーマは?
この童話全体には「ルール」「規律」「責任」といったテーマが強く描かれていることがわかります。
まず、恭一が線路脇を歩くというルール違反をしている恭一。
そして電信柱が「きりつせかいにならびなし」と歌ったり、「責任はみんなにある」と叫んだりする場面。
さらには総長が客車の電燈が消えたことを問題視し、慌てて床下に飛び込む描写などからそれが察せられます。
特に最後、総長が独断で飛び込んだことからは、「ただ前にならえをしていたら良い」ということではないと教えてくれます。
鉄道は規律の象徴
鉄道というシステムは、それまでの文化には存在しなかった厳格な規則に基づいています。
線路や信号機、電線などは、安全運行のために不可欠な要素であり、すべては厳密なルールのもとで動いています。
この技術は、電気総長がこだわっていたように、イギリスから日本に導入されたものでした。恭一はこの晩、鉄道システムがどれだけ規範と抑圧の体系に基づいて動いているかを目の当たりにしているのです。
電信柱が行軍を始める直前、信号機は「横木を斜めに下げる」という動作を行います。
これは、次の列車の進入が可能になったことを示しており、近いうちに列車がやってくる合図です。
それを知ってか知らずか、電信柱たちは行軍を開始します。
鉄道システムに縛られている電信柱たちが、束の間の自由を享受するかのように、規律正しく行軍を行うのです。
いつでも退会できます。
電信柱の行進はシベリア出兵を暗喩?
軍服を着た電信柱が「北」へ向かう……これはシベリア出兵(1918年)に関連しているのではないか?という意見もありますが、真偽は明らかにはなっていません。
ただ、これが正しいのであれば、
ルールを破りつつも別ルールに従って行動している電信柱たち。
自分のペースで歩く、自由な恭一。
そして鉄道システムを無条件に受け入れ、何の恐れもなく列車に乗っている「小さな子ども」は、対比の構図となっています。
それぞれが進む先は一体どれが幸せなのか?ということを考えさせられます。
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まとめ
- 恭一は風の強い月夜に線路脇を歩き、不思議な光景に出会う
- 電信柱が進軍し、電気総長が電気の威力について語る
- 鉄道の厳格な規則と、それに縛られる電信柱の行軍
- 規律や責任、自由に対するテーマが浮き彫りにされる
ぜひ「月夜のでんしんばしら」を読んで、恭一が体験した不思議な世界と、そこに秘められた深いテーマを感じ取ってみてください!
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