宮沢賢治著作『税務署長の冒険』は、密造酒を摘発しようと頑張る税務署長の奮闘ストーリーです。
この記事では
- イラスト入りの簡単なあらすじ
- 作品の解説(当時の密造酒事件や結末についてなど)
をお伝えしていきます。
税務署長の冒険の簡単なあらすじ
まずは簡単にあらすじを要約します。
ユグチュユモト村の密造酒製造を探り、スパイまがいのことをする、行動派税務署長の話です。
ある早春のこと。
ハーナムキャの税務署長は、ユグチュユモト村で密造酒禁止の大演説を行いました。
しかし、密造酒を現に作っているであろう村の人々は、全く怪しい反応をみせません。
疑念を抱いた署長は、部下のシラトリ属を変装させて村を調査させましたが、証拠を掴むことはできませんでした。
そこで、署長自身がトケイの乾物商に変装し、村に出かけます。
苦労の末椎茸山の工場の中に密造所を発見しましたが、逆に捕まってしまいます。
数日間の監禁生活の後、シラトリ属が警察官たちを引き連れて救助に駆けつけ、
署長は首謀者である名誉村長を捕らえ、無事に工場を後にしました。
名言
この作品を代表する、税務署長の名言がこちらです。
「いかにもおれは税務署長だ。きさまらは国家の法律を犯し、大それたことをした。おれはずっと監視していたし、証拠はすべてそろっている。さあ、おれを殺すなら殺せ。だが、国家の公務のために倒れるのは当然のことだ。」
この堂々たる言葉は、税務署長という肩書きや、国家権力を持つ官吏としての自負から来るものでしょう。
また、最後の場面で署長は署員たちや警察官によって無事救出されますが、その際に「わくわく」する様子が描かれます。
これは単に死を免れた喜びではなく、再び国家の一員として正義を語ることができるという嬉しさでしょう。
この物語は正しく「正義が勝つ」という物語なのです。
解説
ここからは、物語をより深く理解するために
- この作品が書かれた当時の背景(密造酒事件)
- この物語のポイント・視点
について解説していきます。
いつでも退会できます。
作品が書かれた時代の密造酒摘発事件
この作品は1923年(大正12年)頃に書かれたとされます。
そして、1920年(大正9年)には「鉢屋森山中大密造事件」という東北地方最大の密造酒摘発事件がありました。
さらに1923年6月に「日本一のどぶろく村」として有名な湯田村でも密造酒事件は発生しています。
ここから、この作品のモデルは
- 湯田村→ユグチュユモトの村
であり、
- シラトリ属→白鳥永吉(実在した人物)
からインスパイアされたのではないか?と言われています。
参考元:「賢治・星めぐりの街」:「税務署長の冒険」と税務署跡
【考察】珍しい権力側の視点?
宮沢賢治は他の作品「三人の役人」や「毒もみのすきな署長さん」で、役人への批判的な視点を書いています。
にもかかわらず、今回は摘発側の視点からの物語。
これはいったいどういうことでしょうか?
もしかすると賢治は密造酒問題に関して、税務署側に意見が近かった可能性があります。
農民がせっかく収穫した米を濁酒にしてしまうことに対し、批判的であったのではないか?ということです。
飢饉等についても書いている賢治なので、米ををそのまま米として保存しておきたい……と考えても不思議ではありません。
「税務署長の冒険」の結末について
署長の計画、準備、内偵、成功はまるで映画のような展開で、非常に痛快なストーリーです。
しかしどれだけ成功した摘発でも、権力による取り締まりは人々の心に恨みを残すだけ……ということはままあります。
そんな中、不思議ささえ感じてしまう平和な終わり方をする『税務署長の冒険』。
最後、捕縛された村人たちが行列を作って町へ向かう中、署長はこの密造酒事件の責任者である名誉村長と並んで歩いています。
このシーンで、署長は「今日は何日だ?」とシラトリ属に尋ね、春らしい景色を見上げながら「いい季節だな」とつぶやきます。
署長には余裕があり、さらに罪を着る立場にある村長までもが、一種の爽やかさを持っていることが印象的です。
最後の部分で描かれるこの春の風景は、「なめとこ山の熊」にも通じるものがあります。
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熊の母子が淡い月光の下で心温まる会話を交わす場面と同様に、ここでも捕まえる者と捕まえられる者の対立関係が一瞬緩み、親和的な空気が漂います。
賢治が究極的に求めていたのは、こうした一瞬の和解や理解の瞬間だったのではないかと考えられます。
まとめ
- ユグチュユモト村での密造酒事件を描く
- 署長自らが変装して調査に乗り出す
- 密造酒工場を発見し、首謀者を捕らえる
- 正義が貫かれるストーリーと堂々たる名言
ぜひ読んでみてください!
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