ただ、あなたがこれから出会っていくたくさんの人たちのことを、断片的な要素だけで決めつけてしまわないでほしい。
一穂ミチ(読み方:いちほみち)著作『光のとこにいてね』(出版社:文藝春秋)読了しました!
2023年本屋大賞3位受賞作品で、直木賞にもノミネートされた作品。
以下、ネタバレ感想記事や、心に残る名言、考察をまとめています。
あらすじ
たった1人の、運命に出会った
古びた団地の片隅で、彼女と出会った。
彼女と私は、なにもかもが違った。着るものも食べるものも住む世界も。でもなぜか、彼女が笑うと、私も笑顔になれた。彼女が泣くと、私も悲しくなった。
彼女に惹かれたその日から、残酷な現実も平気だと思えた。ずっと一緒にはいられないと分かっていながら、一瞬の幸せが、永遠となることを祈った。
どうして彼女しかダメなんだろう。どうして彼女とじゃないと、私は幸せじゃないんだろう……。
運命に導かれ、運命に引き裂かれる
ひとつの愛に惑う二人の、四半世紀の物語
主な登場人物
よく出てくる呼び名だけ記載しています。ネタバレ注意。
- 結珠(ゆず)……母親に支配されて育った主人公。初登場時小二。教師になり藤野と結婚する。
- 果遠(かのん)……小二出会った結珠が特別な存在となった、もう一人の主人公。高校にて再会し、子供が出来てからまた再会する。
- 藤野……結珠の家庭教師。結珠と結婚する。
- 直くん……結珠の弟。
- 水人(みなと)……果遠の結婚相手。間に子(瀬々)もいる。
ネタバレ感想
ジャンルは百合……?一言で「恋愛」と言い切るのも難しい、女同士の友情と恋愛のはざまくらいの物語です。
「母親問題」や「両方途中で結婚する」というのもポイントでした。
男性陣はどちらの夫も思いやり深いのですが、踏み込んで共感し、グッと心を近づけられるのは女同士なのかなと。
性差について考えさせられます。
長編ですが、小学生➡高校生➡大人と、時ををまたぐからこその感動があるためイラっとはしません。特に後半が面白いと感じました。
余韻が残る、明言されない感情での結末がとても気に入りました。
タイトルについて考察・名言について
本書のタイトル「光のとこにいてね」。
表紙でも表現が秀逸です!
これは物語中に何度も出てくるキーワードですが、読んでいると作者には暗示したい強いメッセージがあるのではないかと感じました。
そのヒントがこの文章です。
明るさって無常、ふと思った。
光は希望の象徴だけど、照らされたら逃げも隠れもできない。
嘘やごまかしを許してくれない。そして足下に影を生む。
つまり「光のとこにいてね」と願うことは、
気持ちを誤魔化さずにいて。たとえその真実の感情が悲しみを生んでも。
という、利己的な生き方を助長する、結構過激で身勝手なものなのです。
この考え方は、物語の結末にドンピシャにハマります。
物語の最後、離婚し子供も手放した果遠を結珠が追いかけます。
明言はされませんでしたが、結珠のほうも夫を捨てて駆け落ちする……そんなこともあり得るような終わり方でした。
「良い家族の形」というもので誤魔化さず、「果遠と結珠、二人で一緒にいたい」という心からの望みを発して。
2人の夫……水人も藤野もいい人で、瀬々という子供もいるけれど、その形を壊しても。
それが「光のとこにいてね」ということだと思います。
【百合で浮気なのか?】結珠と果遠
”共感”してほしくないから夫には話せない。
そんな後ろめたくもエモい関係の結珠と果遠。
キスを浮気とするなら浮気ですが、果遠から結珠へ行動で示した愛情は、夫を凌駕すると言ってしまえる程でした。
藤野に詰め寄ったり、結珠のクソ母に睡眠薬を盛ったり。
激情を行動で示す、実績ある愛情……
形にとらわれず魅力を読み取るのも、豊かな生き方かなと思わされます。
毒親・結珠の母
最後に。触れずにはいられない、結珠の母親の「ヤバさ」。
エピソードを上げればきりがないのですが、個人的に残酷さナンバーワンの描写を紹介したいと思います。
「ママ、私、」
「結珠」
ぞくっとした。それは声というより音声に聞こえた。自販機やATMから流れるアナウンスと同じで、感情を殺してるんじゃなく、端から存在していない声。
家庭内で精神的圧力をかけられ、人によってコロコロ態度を変える様を見せつけられ……反吐がでますね。
この作品は、こういった描写も秀逸で魅力となっています。
まとめ
- 『光のとこにいてね』は、友情と恋愛の境界線にある複雑な関係を描いた物語です。
- 主人公・結珠と果遠の関係性は、共感や愛情が深く絡み合い、既存の家族の枠組みを超えた絆が描かれています。
- 物語のテーマとして、光と影、嘘を許さない現実を象徴する「光のとこにいてね」というタイトルが重要な意味を持っています。
- 結珠の母親の冷徹さや毒親問題も、物語全体に大きな影響を与えています。
- 最後まで読むことで、二人の女性が選んだ「真実の生き方」に心を打たれる作品です。
是非、読んでみてくださいね!
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