カズオ・イシグロの著書『忘れられた巨人』読了しました!
アーサー王伝説を下敷きにした壮大なファンタジー!
「数秒前のことまでもの忘れさせる霧」の世界で、老夫婦は息子に会いに行く決意をし…という内容です。
この記事では
- あらすじ・登場人物(ネタバレありでラストまで)
- 考察(タイトルの意味等)
- 感想
をお伝えしていきます。
あらすじ

この物語はアーサー王伝説が元になっています。つまり…
- 6世紀初頭あたりの話。物語の始まる前、ブリトン人とサクソン人の戦争があった
- 鬼・妖精・悪魔など超自然的なものが実在する世界
という前提で読んでください。
ネタバレにならない範囲で

小さな集落に住んでいた(アーサー王と同じ)ブリトン人の老夫婦、アクセルとベアトリス。
集落には健忘の霧と呼ばれる原因不明の霧が漂い、住民たちは昔のことも、時に数分前のことも思い出せなかった。
夫婦仲は良好だったが、周囲の住民との仲は良くなかった。(これも健忘の霧で記憶違いが発生したせいだと思われる)
老夫婦はある日「息子の元へ行こう」と決心し、旅にでる。
一つの怪我が命取りになる危険な旅路。獣や鬼にも注意しないといけない。
やがて老夫婦は、
- 戦士『ウィスタン』
- 鬼にさらわれた子供『エドウィン』
- 竜を倒す戦士『ガウェイン卿』
と出会い、旅路を共にするーーー……
- 各キャラクターの本当の目的は?
- 健忘の霧の真実とは?
- アクセルとベアトリスは何を忘れている?
- 息子と会うことはできるのか?
- 夫婦の絆が試される「島」とは何なのか?
霧で隠された上の事項が、旅路の中で明らかになっていくーー…
ラストまでの真実をネタバレ

健忘の霧…その正体は雌竜『クエリグ』の息だった。
しかし竜の息に「全てを忘れさせる効力」が宿ったのは、人為的なことからだった。
戦争後にアーサー王は、サクソン人とブリトン人が手を取り合うことを望んだ。
殺し合った二つの民族がすぐさま助け合うのは、通常不可能なこと。
しかしアーサー王の部下・マーリンが竜に黒魔術をかけたことで、竜は全てを忘れさせる息を吐くようになり――……
昨日殺し合った者たちが、今日は手を取り合う世界になった。
(この件にはアクセルとガウェイン卿も協力していた)
しかし竜の余命は自然に任せておいても後わずか。
それを守るべく護衛をやっていたのがガウェイン卿で、それすら待てず、竜を絶対に倒したいのがウィスタンだった。
二人は剣で命をかけて戦い、ウィスタンが勝利した。
ウィスタンが竜を殺したため、霧は晴れた。
そして真実が戻ってくる。
もうすぐサクソン人とブリトン人、血を血で洗う争いが戻ってくる。
アクセルはかつてアーサー王に仕えた騎士だった。
しかし平和を望んでいたのに戦争が起こり、アーサー王を捨てた。
それからはベアトリスを愛することに一生を費やした。
夫婦仲にも不和はあった。
ベアトリスが浮気したことがあり、両親の不和を感じとった息子は家を出てしまった。
そして疫病で死んだという知らせが入った。
アクセルはベアトリスに、息子の墓参りを禁じた。
浮気への復讐心からだったが、今では自分の方がよほど酷いことをしたと後悔している。
しかし健忘の霧の影響もあり、アクセルは息子に会いに行こうと思い立った。
※思い立った時、生きていると思っていたのか、死んでいることを理解していたのかは不明である。
息子の墓は島にある。
島に渡るにあたり、船頭に二人の愛が本物であるかを試されたが、どうやらお眼鏡に叶ったようだ。
海を渡れるのは一人ずつ。まずはベアトリスから。
アクセルは二人同時に渡れないと聞いて不機嫌になったが、ベアトリスの説得でやっと彼女の元を離れた。
登場人物

『忘れられた巨人』は比喩?

かなり最後まで回収されないタイトルの意味。
「巨人のケルン」(巨人に殺された人々を追悼する石の碑)という言葉は出てきましたが、巨人はあくまで例えでした。
『忘れられた巨人』……それはクリエグの霧によって忘れさせられていた『ブリトン人とサクソン人の諍い・戦争の記憶』のことです。
霧によって人々の記憶を封印されたからこそ、戦争直後にも関わらず、二つの民族は比較的仲良く生活できていました。
しかし、霧が無くなれば巨人(蓄積された互いの種族への恨み)は立ち上がります。そしてめちゃくちゃに暴れ回ります。
アクセルとベアトリスはおそらく『島』に逃げおおせています。
しかしウィスタンやエドウィンは……今後発生していく戦いに、身を投じるのでしょうね。
【考察】島とは何なのか?

この物語の鍵となるのが「健忘の霧」と「島」です。
夫婦そろって渡るには、「本物の愛」が必要だと言われる「島」。
実はこれも、アーサー王伝説から拝借された設定だと思われます。
島の名前はおそらく『アヴァロン』。
言い伝えの一種では「アーサー王が眠っている」とされる場所です。
- 不老不死や癒しの力を持つ神秘の地
- 人間の世界とは隔絶した理想郷
中世の人々にとって、アヴァロンは「理想の楽園」の象徴だったとか。
夫婦が無事この島に辿り着き、旅に疲れた体を癒せていると良いですね。
ネタバレ感想

前に読んだカズオ・イシグロの別著作『日の名残り』と全然違う!というのが第一印象でした。
こちらの記事で書いていますが、日の名残りは一人語りでかなり地味だったんですよね。
対して『忘れられた巨人』は派手!相変わらず年齢層高めではありますが、若者も出てきて、手に汗握る冒険物語になっています。
しかしこの、奇妙なまでにリアルに自分が見たことないはずの世界を描いてしまうのが、やっぱりカズオ・イシグロ!
彼の頭の中では、登場人物一人一人の動きが恐らく映像で流れているんだろうな~~と思います。
じゃないと旅の歩き方一つとっても…老夫婦どちらが前を歩き、どちらが後ろか。それは何故か、安全性云々の理由で…など、ここまで緻密に描けないと思うんです。想像力が怖い。
面白かったです。
強い愛情の物語っていいですね。
アクセルはそれを水中に振り落としながら、突然、ベアトリスのそばにいられるなら、ほかに何もいらないと思った
忘れられた巨人,300pより
愛を試されるなら、ありとあらゆる困難を超えてきた老夫婦だなと思いました。
同著者の作品『わたしを離さないで』にも愛を試される展開は登場しましたが、こちらで答えがでて満足です。
関連記事:『私を離さないで』原作小説ネタバレあらすじと相関図・感想
最後にアクセルが船頭と仲直りしなかったのは「ヤキモチ」からだと思っています。
いつまでも離れたくない夫婦。疲れた体を無視して我が身を鑑みずに水に飛び込んだアクセルは胸熱でした。
船に乗れるとはいえ、不確かな未来。
せっかくなら二人が幸せに墓参りして、平和な島で暮らす様子まで見たかったなと思いました。
まとめ

- アーサー王伝説時代の物語(しっかりとしたファンタジー)
- 健忘の霧が漂う世界で、アクセルとベアトリスの老夫婦が、息子に会うため旅にでる
- 健忘の霧の要因…雌竜クエリグの真実と、それを巡っての争いが描かれる
- 夫婦の愛が試される、実質的には愛情物語
気になった人はぜひ読んでみてください!
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