『近畿地方のある場所について』に登場する『呪文』。
作中でもインパクトを残す「呪文が唱えられるシーン」2回ですが、
マルチ商法のパーティー会場と宗教団体、2つの呪文はほぼ同じ文言になっています。
宗教団体の広報担当が言っている「ひらめいた音を発している」は嘘。呪文には意味がある。
この記事では、『近畿地方のある場所について』の呪文について、その意味を考察していきます。
二つの呪文の比較

まずは微妙に違う二つの呪文の比較です。
作中には「マルチ商法のパーティー会場で唱えられていた呪文」→「宗教団体で唱えられていた呪文」という順番で登場しますが、
時系列的には「宗教団体で呪文が唱えられる」→「マルチ商法会場で呪文が唱えられる」の順だと判明しています。
行 | ①宗教団体 | ②マルチ商法 | 相違点 |
---|---|---|---|
1 | るきえましらむどじえうずめ | るきえむどじえうずめ | 「ましら」が消えている |
2 | めしたがははあおえましらおいずめみおちくど | めしたがははあおえましらおいずめみおちくど | 一致 |
3 | ぞぎつましらふいえはもすもおおえ | ぞぎつふいえはもすもおおえ | 「ましら」が消えている |
4 | あいるずめそましらうづじえみふおぽれるとずえ | あいるずめそうづじえみふおぽれるとずえ | 〃 |
5 | どいーしましらめこよいあすぴくそ | どいーしめこよいあすぴくそ | 〃 |
6 | すえいみくるるるえましらおきむなし | すえいみくるるるえおきむなし | 〃 |
7 | あおいえふずもづいせろましらおあぶるいそ | あおいえふずもづいせろおあぶるいそ | 〃 |
8 | ちめみふずろいてとっつすもいてとぶなるましらいけこみてる | ちめみふずろいてとっつすもいてとぶなるいけこみてる | 〃 |
9 | ふえおいえぷしましら | ふぇおいえぷし | 〃 |
10 | りましらつふいとみなおいおえるつ | りつふいととみなおいおえるつ | 〃 |
11 | ましらしこえりぶついとてみず | しこえりぶついとてみず | 〃 |
マルチ商法の会場では「ましら」が消えていますね。
これは「意味のない呪文」を装いたかったのかな?と考えられます。
何度も繰り返されて、嫌でも「ましらって何?」と引っ掛かる部分ですもんね。
呪文の意味を考察
それでは呪文の意味を考察していきましょう。
前提として「呪文」である

分かっていることはまず「この呪文が確率されたのは1991年より前(宗教団体の設立以前)の可能性が高い」ということ。
そして「呪文」であり、「暗号」ではなさそうだということです。
…五十音表で一文字ずらすとかそういった小細工はせずとも、このままの日本語ベースで意味が通りそうだということですね。
例えば1文目の「うずめ」。これは日本神話に登場する「アメノウズメ」から、神との媒介者的なものをイメージさせますし、
2文目の「みおち」は身を堕とす…生贄や祈願を連想させます。
さらに神道・呪術的要素も混ざっています。
呪文(言葉に特別な力をこめて唱えるもの)や咒(仏教や密教で使う言葉)では、「濁音+短音」が力の発動音として頻出するとか。
3文目の「ぞぎ」はましらさま召還の音と考えるのがよさそうです。
山岳信仰的な「呼び・捧げ・顕現」も関係?

となると、「近畿地方の山岳信仰に関わる語句も関係しているのでは?」という疑惑が出てきます。
調べてみるとそもそも「ましら」というのは猿の古い呼び方で、まさる(神猿)信仰の神社も実在するのだとか。魔が去るということで縁起が良いそうです。
(参考:日吉神社)
ましらがここから呪文に取り入れられているというなら、他もあると考えるのが妥当です。
というわけで、信仰系ワードっぽいのがこちら。
語句 | 信仰との関連 | 解釈 |
---|---|---|
あぶる | 修験道の火祭・火渡り修行 | 火=浄化、供物焼却、「火をもって鎮める」 |
ちめみ | 地霊信仰(地主神) +「め=女神」 | 土地神・女性神の呼びかけ(白山信仰など) |
ふいえ/ふえおい | 息・風・笛=修験道の法具 | 修験者の法螺貝・笛は霊を呼ぶ媒体 |
いけこみてる | 生贄・供物を「込める」儀式語 | 山伏の捧げ物、死と再生の象徴(密教) |
るきえ | 起動語・印契の発声 | 陰陽道や密教での「印を結び言を唱える」始まり |
呪文全文の訳

ここまでの前提を元にして、(当然あっている保証はないですが)全文の訳はこちらです。
開け、渦の奥に封じられし扉よ。
我らは今、命と声を携え、ましらの御許に進み奉る。
風よ動け、霊よ舞え、火と水よその身を整えよ。
渦巻く魂よ、いにしえのましらよ、我が声に応え姿を現したまえ。
いま夜を貫き、五行を揺らし、封じられし力を解き放たん。
息は乱れ、音は震え、虚無なる夢に火花が走る。
青き波は割れ、火は昇り、供物はその身に焼き付けられる。
地の女神よ、眠る霊よ、此処に集いて供物を受け給え。
吹け、祈れ、叫べ、その魂を放て。
火と水とが交わり、ましらの姿、いまここに宿れ。
そしてすべての秩序を壊し、新しき始まりをもたらしたまえ。
それっぽい呼び出しの呪文になりましたね。
もうちょっと詳しい各句の詳細解釈を下記に載せておきます。
各句の詳細解釈

呪文句 | 解釈 |
---|---|
るきえむどじえうずめ | 「封印解除の起動語」+「うずめ」=天宇受売命の巫女的力 |
あおえましらおいずめ | 「青き浄めのましらよ、追い詰めて捧げ給え」 |
みおちくど | 「堕ちる身、苦悶とともに」=生贄的構造 |
ぞぎつふいえ | 「呪風・霊風よ、笛のように響け」 |
あいるずめそうづじえ… | 「ましらの顕現」への呼びかけと強化 |
すえいみくるるるえ | 「夜と音が満ちる」=霊の来訪演出 |
おきむなし | 「起きることなき夢」=霊界、異界 |
あおいえふずもづいせろおあぶるいそ | 「青の霊、火に焼かれる供物」=浄化と奉納 |
ちめみふずろいて… | 「地の女神と霊よ、集い給え」 |
ふぇおいえぷし | 「息・霊・叫び」=精気の噴出 |
りつふいととみなおいおえるつ | 「交わる火と水、完全なる顕現」 |
しこえりぶついとてみず | 「混沌から現れ、世界を水で締めくくる」=再生の兆し |
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