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アフターザクエイク【ネタバレ考察】機関車やアイロンを考える

神の子供たちはみな踊る【ネタバレ考察】機関車やアイロンを考える 小説・実用書

「機関車」と片桐はもつれる舌で言った、「誰よりも」。それから目を閉じて、夢のない静かな眠りに落ちた。

村上春樹著作『神の子どもたちはみな踊る』6短編のネタバレあり考察記事です。
『アフター・ザ・クエイク』というタイトルで2025年10月映画化。

荒唐無稽だったり、「どういう意味…?」と戸惑った内容も多かったので、自分なりの考察をできる限り考えてみました。

 全話のあらすじ

阪神淡路大震災のイメージ

1995年1月17日の阪神淡路大震災の後を舞台とした、6つの短編です。
※全て神戸から離れた場所にいた人のエピソード

【UFOが釧路に降りる】

地震のニュースを見て連日思い悩んでいた妻が、急に出て行った。離婚を望んでいる。
考えるために休暇を取った小村は、なぜか同僚に頼まれて、北海道まで「箱」を届けに行くことに……?

【アイロンのある風景】

たき火をする順子と三宅さん。二人の死に関する「ひっそりとした気持ち」がたき火に映し出されーー?

【神の子どもたちはみな踊る】

信仰心の強い母に育てられた善也は、生物学上の父と思わしき人物を見つけ、後を追うがーー?

【タイランド】

タイのリゾートで骨休めを試みたさつきは、運転手兼案内人のニミットと出会い、本当の休養を体験する。

【かえるくん、東京を救う】

銀行員の片桐がアパートに帰ると、2メートル級の喋る蛙が待っていた。
かえるくんは「一緒にみみずくんを倒して欲しい」と言ってきてーー…?

【蜂蜜パイ】

大学からの親友…淳平・高槻・小夜子の、長年にわたる三角関係の物語。
蜂蜜パイの幸せを掴むまでの遠回り。

UFOが釧路に降りる ネタバレと考察

小村が預かっていた中身不明な箱

想像力が足りなかった男が、

  • 中身が不明な箱を渡されて
  • 二人の女性(宇宙人?)と会って話し

「感じなかったものを想像できるようになる」話かなと思いました。

地震の悲惨なニュースを5日間睨み続けた妻と、ニュースを見ても大した感想を抱かない夫。

しかし小村の目には、それらのディティルは妙に平板で、奥行きを持たないものに移った。すべての響きは遠く単調だった。

この埋められない感受性…「中身」の差が、離婚を突き付けられた要因だと考えられます。

しかし小村はそれに気づかず、

持たされた箱の中身がUFOだとも気づかず、

シマオとケイコのどこか宇宙人っぽい言動もスルーしました

※タイトルをネタバレだと信じて考察しています。

シマオとケイコが怪しいのは具体的には下記の点ですが、

  • 小村を見てなぜか「箱を運んで来た人」だと気づいた
  • 飛行機についての意見
  • 自分たちを友人ではなく「仲間」と発言
  • UFOについての話題をだして、小村の様子を伺っていた
  • ケイコは先に帰ったが、シマオはどうやって帰るつもりだった?
  • 元カレとハイキングに行ったのは連れ去るためでは?
  • ラスト小村の胸に描いた模様は?

小村は殆ど疑問・疑心を抱きませんでした。

しかしそんな小村でも感性を呼び起こされたのが、シマオとのセックス。

妻から地震の光景を想像してしまい、できない……

皮だけでできた鮭の話があがりましたが、やはり小村にも「中身」…感受性はあったわけです。

「でも、まだ始まったばかりなのよ」と彼女は言った。

だからそうですね、もしこれから……宇宙人に連れ去られて生きて帰るような経験を積めたなら。

迎えに行った妻も、「今までの何も与えてくれない夫とは違う」と感じ取ってくれるやもしれません。

画面上の震災を5日間睨み続けた妻。
小村が彼女に追いついて与えるまでになるには、それくらいの経験が必要だと思われます。

アイロンのある風景 ネタバレと考察

海に流れつく廃材を利用したたき火

からっぽな女性・順子と、冷蔵庫に閉じ込められて死ぬ夢を見る男・三宅が

焚火をしながら死を望む物語。

「二人で死ぬこと」を望んだ順子に、三宅は「焚火が起こったら起こすからその後に」と返します。

そしてその後は描かれないという、読者にゆだねられる終わり方です。

個人的な予想ですが、二人はこの後自殺したりしないと予想します。
あっても「試みるけど失敗する」とかではないでしょうか?

そう考える理由が、ジャック・ロンドンの小説『たき火』。

旅人は死を求めているが、生き残ることを目的として闘わなくてはいけないーー……

この矛盾に順子が惹かれているなら、生を諦めてはいけないと分かっているはずです。

あとは三宅が啓介にしていた「順子を家まで送っていく」という約束。
これを破らないと信じたいです。

冷蔵庫で死ぬ夢を考察

不気味な冷蔵庫

三宅が繰り返し見ている「冷蔵庫で死ぬ夢」。

「ちょっとずつ窒息して死ぬ」「目が覚めてもまだ夢で、死人に殺される」という残酷なものです。

そしてこれをジャック・ロンドンの例

「海に溺れて死ぬ予感」は外れ、実際には「アルコール中毒の真っ暗な絶望でもがいて死んだ」

という例に当てはめて、三宅の死に方を予想してみましょう。

「冷蔵庫の悪夢を連想させ、その上をいくもの」というと……

冷蔵庫の悪夢を見ながらちょっとずつ消耗していく毎日。
しかし目覚めても「神戸に置いて来た家族が死んでいる」という現実があり、罪悪感に耐えられず自殺する。

みたいな感じでしょうか?
うーん……

アイロンは何の比喩?

アイロンのある風景

三宅が描いた「アイロンのある風景」は何の身代わりなのか?

毎食コンビニ食のおっさんが自分でアイロンをかける想像はできませんし、ではないでしょうか?

アイロンも「熱するもの」という面ではたき火と同じです。

しかし三宅はアイロンを捨てて、今たき火を溺愛しています。

たき火には自分の中にあるひっそりとした気持ちが映るという三宅。

アイロンという人工物の前では、心が自由にならなかったのでしょうか?
だから家族を捨てて、自由な場所に来たのでしょうか?

けれど神戸の地震のニュースを受け、思い出して描いてしまったのかもしれません。

そんな想像をしました。

神の子供たちはみな踊る ネタバレと考察

野球場で踊る善也

宗教の中で育てられた主人公が、一歩自立する物語です。

信仰に生きる母に育てられた善也(よしや)は、
自分の父と思わしき耳たぶの欠けた医者の男を偶然見つけ、後をつけることに。

しかし野球場で見失い、興味を失った善也は、

自分がとうに信仰を失っていると気づき

追ってきたのは父ではなく「自分の心の闇」だと気づき

母への邪念を受け入れて、「もし若い頃に出会えていれば」と考えます。

グラウンドで踊る善也は、視線を感じても気になりません。

(踊りは元カノと行ったディスコで覚えたもの。彼女は善也を「かえるくん」と呼んでいた)。

最後、救急車のサイレンを聞いて「神様」と口にした善也。

病床を見舞った「田端さん」を思い出したからでしょうか?

医者である父をいたずらに「神様」と呼んで、患者が呼んでるよと言いたいのでしょうか?

善也の本意は分かりません。

タイランド ネタバレと考察

タイのリゾートに停まるメルセデスベンツ

心に暗い過去を持ち続けた女性「さつき」のタイ休養記~withガイド運転手「ニミット」~。

タイでの甲状腺会議に出席した後、リゾートで休暇をとることにしたさつき。

彼女はニミットに震災について聞かれ、神戸に住む「あの男」を思い出して、「つぶれていればいいのに」と考えます。

おそらくですが、さつきは

父が死んだ後母が再婚した男に
30年前に性暴力を受け、妊娠して堕胎したのではないでしょうか?

ニミットは最終日に、さつきを年老いた占い師の元に連れて行きます。

彼女は「夢で、自分の中にある石を蛇に飲み込ませなさい」と言います。

※タイにはナーガ(大蛇)信仰があります。
石を飲み込ませる→心に引きずっているモノを蛇に吸収してもらえという意味だと思われます。

その通りにしたさつきは、日本行きの飛行機でも考えることを止めました。
人生の折り返しにきて、やっと身軽で疲れない生き方を得たということでしょう。

かえるくん、東京を救う ネタバレと考察

片桐の職場・銀行

貸付金の取り立てを行う部署で働く男『片桐』がアパートに帰ると、

2メートル以上ある巨大な蛙が待っていたーー……

6つの短編の中でも童話感のある物語です。

「かえるくん」は「3日後に東京で地震を起こす「みみずくん」を止める手伝いをしてほしい」と頼んできます。

拳銃で狙撃されて行けなかった片桐。
しかしかえるくんは「夢の中で助けてくれた」と満足した様子でした。

地震は阻止できたけれど、大ダメージを追ったかえるくん。

体中の瘤が破裂し、ウジ虫がでてきて、それは片桐をも覆っていき……

というところで目が覚めた片桐。

片桐はかえるくんのことを看護師に話し、また眠りました。

かえるくんは何者か?考察

アパートにいるかえるくん

『神のこどもたちはみな踊る』で登場した善也も「かえるくん」と呼ばれていました。

本作で出てくる「かえるくん」は善也なのでしょうか?

人間と蛙で姿かたちが違いますが、善也にも「大地の底に存在するもの」を思う描写がありました。

欲望を運ぶ人知れぬ暗流があり、ぬるぬるとした虫たちの蠢きがあり、都市を瓦礫の山に変えてしまう地震の巣がある。

「みみずくん」に気づいていた、ということです。

かえるくんはもしかすると「神の子」の呼び名なのかもしれません。
人間にとって悪いモノを引き受けてくれるという点では、『タイランド』の蛇も重なりますが、これと似たような存在なのかもしれません。

最後の「機関車」を考察

アンナカレーニナの機関車

童話には教訓がつきもの。この物語で言うと

ニーチェが言っているように、最高なる悟性とは、恐怖を持たぬことです。

これでしょう。

片桐は悪い想像を止めることが非常にうまい人物です。

かえるくんの脅しに一日で屈して、7憶を返却してしまうような奴らとは違います。

その最たるものが、ラストの「機関車」→「誰よりも」描写だと感じるのです。

「片桐さんはきっと、かえるくんのことが好きだったのね?」
「機関車」と片桐はもつれる舌で言った、「誰よりも」。それから目を閉じて、夢のない静かな眠りに落ちた。

片桐はこのやりとりの直前まで、死んだであろう「かえるくん」について話していました。

「機関車」もその話題の名残だと思います。アンナ・カレーニナは最後機関車に轢かれて亡くなったので、「機関車」とは「死」の暗喩です。

ですが片桐はその一言で止まって、看護師の質問に意識を切り替えました。

そして「誰よりも」と答え、すぐに眠ったのです。

この想像力を止める早さ。思い悩まない潔さ。
これこそが地震をはじめとした非常時に、一番大事なことだと伝えたかったのではないでしょうか?

というか、悪夢のあとすぐ「もう一回寝よ」とはなりませんよね。
選ばれるだけある男です。

蜂蜜パイ ネタバレと考察

蜂蜜パイ

三角関係の物語。

大学で出会い親友となった「淳平」「高槻」「小夜子」。
ところが高槻は抜け駆けして小夜子と付き合い、結婚して子供を作り、浮気して穏便に別れました。

ずっと親密な友人関係を続けていたのに、意味がわからなかった淳平。

しかし淳平は小夜子と一線を超えた日、友情だけでは人生において十分じゃない……それに自分だけが気づいていなかったと気づきます。

小夜子と小夜子の娘・沙羅を守ると決め、結婚を申し込む決意をした淳平。

沙羅に聞かせていた「とんきち」と「まさきち」という熊の友情話も、二人で「蜂蜜パイ」を売るというハッピーエンドに変更したものを思いつきました。

一度二匹の物語はバッドエンドを辿っています。とんきちが捕まって動物園に入れられるエンド。
その時淳平は「二人で蜂蜜パイを作る」という案を思いつかなかったわけです。

幸せの為に発想力を駆使して自分から動くべき……そんなことを教えてくれる話です。

まとめ

『神の子供たちはみな踊る』6編は、考えれば考えるほど「こういうことが言いたいのか…!?」と味が出てくる物語。

二週目でまた楽しい書籍です。

ぜひ読んでみてください▼

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