この記事は、朝倉秋成さん著作『俺ではない炎上』を読んでいまいち理解できなかった人向けの解説記事です。
時系列が混ぜ込まれた叙述トリックが使われている為、分かりにくい本作。
正直私も途中「もしかしてタイムリープしてる…?」と思いました。
しかし本作にそのようなファンタジー要素は盛り込まれていません。
ここからネタバレありで時系列順に物語を整理していきますので、是非参考にしてみてください。
登場人物解説(ネタバレ注意)
多大なネタバレが含まれますのでご注意ください。
ここさえわかればOKという登場人物です。
山縣 泰介 | 本作主人公、54歳。大手ハウスメーカー営業。 なりすましアカウントに無実の罪(殺人罪)を着せられて逃走するが、途中から真犯人を捕まえる方向にシフトする。 |
山縣 夏実 | 泰介の娘、大学生二年生。「サクラ」と言う名でも登場。 冤罪の理由も真犯人も察しており、父を助ける為に動く。 |
住吉 初羽馬 | なりすまし殺人twitterを拡散した大学三年生。 夏実(サクラ)に協力。 |
江波戸 琢哉 | 夏実の小学五年生の時のクラスメイト。あだ名は「えばたん」。現在は工務店勤務。 10年前、泰介が夏実を一晩躾として倉庫に閉じ込めたことに怒り、しかし何も言えない自分に悔しさを感じていた。 悪質な援助交際をしていた女性三名を殺害し、泰介に罪をなすりつけた。 |
被害者▼
名前 | 発見場所 | |
---|---|---|
1人目 | 篠田美紗 | 公園公衆トイレ |
2人目 | 石川恵 | 山縣家自宅倉庫 |
3人目 | 砂倉紗枝 | からにえなくさ |
【時系列順】あらすじ解説

ではここから時系列順に『俺ではない炎上』のあらすじを解説していきます。
10年前の出来事

夏実(小学5年生)が父のPCを使い、20代後半の男と会う約束を取り付けて待ち合わせ場所に向かった。
幸い男は来なかったが、このことは警察から父親の泰介にも知らされた。
「娘が女児連続暴行犯と会う約束をしていた。危ない所だった」
泰介は強いショックを受け、夏実を倉庫に一晩閉じ込めて反省させた。
そして小学校にも「学校は何をやっているんだ」と乗り込んだ。
凄い剣幕だったため、この件は学校中の噂に。
「夏実ちゃんがレイプされた」「夏実ちゃんの父親が教頭を殴って気絶させた」というデマまで広がった。
この事件で警察が(夏実たちが避難していた)祖母の家に来ていたある日、クラスメイトのえばたんが夏実を訪ねてきた。
えばたんは女児連続暴行犯を捕まえる為に動いているらしい。
自分のことを肯定してくれるえばたんに夏実は徐々に心を開き、自分の情報を色々と開示する。
- 父に一晩、倉庫に閉じ込められたこと
- しかし納得できず、「ネットで人と会うのはいいこと」だと父に証明するため、ウォークマンを使って父の名前でTwitterを始めたこと(ゴルフ友達を作ってあげるサプライズ)
- 家の鍵を鉢植えの下に隠してあり、暗証番号は父の誕生日の0701であること
- えばたんの祖父が見た怪しい人物は自分で、秘密基地「からにえなくさ」でゲームをしようとしていただけということ
言わずに家を出てきた夏実を迎えにきた泰介。
威圧感のある泰介に、えばたんは言いたい事…「騙されただけの夏実を一晩倉庫に閉じ込めるのは酷い」と伝えられなかった。
夏実は、えばたんが父に対して怒りや悔しさ等、様々な感情を募らせている様を見た。
女児連続暴行犯は、警察の手によって後日捕まった。
現在の出来事~ラストまで

質の悪い援助交際をしていた女性三人の本名がネットにさらされた。
「楽をして生きる人間が許せない」と考えたえばたんは、三人を殺害する。(遺体は公園、泰介の家、「からにえなくさ」に遺棄)
そして「からにえなくさ」に置き去られたウォークマンから、泰介のTwitterアカウント(作成は夏実)にログイン。殺害したことを仄めかす投稿を載せた。
自分の雑学アカウントでそれをリツイートしたえばたんは、さらに罠を仕掛けた。
泰介のオフィス郵便に、「逃げるしかない」「辛くなったらここに」と「からにえなくさ」の住所座標を載せた手紙を投函する。
これは追い詰められた泰介がすぐに自殺できる場所として用意したもので、石油も巻いていた。
そして思惑通り、泰介は逃亡劇を始めた。
一方夏実は真犯人がえばたんで、過去の自分のやらかし(えばたんに個人情報を根こそぎ教えてしまっていたこと)が悪用されたと把握。
発端のツイートを拡散した知り合い「住吉」に協力を頼み、父を保護するために動く。
泰介はあちこちを転々とした後、犯人を捕まえる為にも手紙の座標「からにえなくさ」に。
その近くで三行が鉢合わせ、えばたんは力業で確保された。
警察への通報後、取り調べにてえばたんこと江波戸 琢哉が犯人だと発覚。
泰介は誤解が解け、元の日常に戻っていった。
意味不明になるポイント解説

大学と小学の半々の画像
物語がサクッと理解できない原因は、作者が意図的に「10年前の出来事」と「現在起こっていること」がごっちゃになるように書いているから。
例えば夏実(小5)の独白ですが、
父がそんな真似をするはずがないという祈りにも似た思いと同時に、しかしどうしてそう言い切れるのだろうと迷いも生じる。
俺ではない炎上,60pより
この文章では「そんな真似」は殺人だと思ってしまいますよね。
まさか「小学校に乗り込んで娘にレイプ未遂事件があったことを話し、教師たちを問い詰める」だとは思いませんよね。
叙述トリックとして、意図的にふんわりとさせて書いているんです。
「女児連続暴行犯」のことを「今回の事件の犯人」と書いたりして、現在と過去を混同するようにしているんです。
読者を騙そうとする意志は、時系列をごっちゃにしているところからも現れています。
例えば「現在」の祖父母の家での出来事→「過去」の祖父母の家での出来事
と、移り変わる箇所があります。
場所も同じ、登場人物も同じ。ただ視点の人物が変わっているだけ…
そう思わせて10年過去の回想に移り変わっているんです。
これは錯覚してしまうのも無理はないでしょう。
本書を読む際は、視点が切り替わる時に注意が必要です。
犯人の犯行動機について

犯人(えばたん)の動機。
これもちょっと分かりにくいので解説していきます。
小学校の頃はSNSを見て「こういう大人になってはいけない」と発言するなど、人格者の片鱗すらあったえばたん。
しかし10年の間に苦労したのでしょう。正義感を間違った方向に進ませました。
「楽に稼ぐ人間が許せない」。思うだけなら自由ですが、「殺人」してしまえるほどの行動力をえばたんは持ち合わせていました。
そして罪を泰介に押し付けたのは、もはや「逆恨み」です。
- 夏実を一晩倉庫に閉じ込めたことへの怒り
- 泰介を見てひるみ、何も言えなかった自分への恥ずかしさ
- 工務店で働く自分と大手ハウスメーカーで働く泰介を比べての嫉妬
全部ないまぜになった結果、冤罪を人におっかぶせる酷い大人になってしまいました。
紹介した書籍▼
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