芥川龍之介の晩年の作品「河童」。
この記事では
- 簡単なあらすじ
- 名言・印象的なエピソードの考察
- 伝えたかったこととは?
をまとめています。
ファンタジーな『河童の世界』が舞台にも関わらず、現代人に刺さる妙なリアリティーが流石の作品です。
目次
芥川龍之介について
短編小説家として特に有名な文豪で、代表作に「羅生門」、「蜘蛛の糸」、「鼻」などがあります。
『羅生門』や『トロッコ』を教科書で読んだ覚えがある人も、多いのではないでしょうか?
奇想や不気味な要素を含みながら、人間の心の闇や複雑さを描き出す世界観はインパクト抜群です。
また、今回紹介する『河童』のように社会的・倫理的な問題を探求したものも。
初期と晩年の作風が違うのが特徴的で、「初期がいい!」「晩年がいい!」等の意見もあるようです。
(今回の「河童」は晩年の作品、「羅生門」は初期の作品です)
志賀直哉の「話らしい話のない」心境小説を肯定して、それまでのストーリー性のある自己の文学を完全否定していたこともあるそうです。
凄い作家なのに、難儀な性格ですね。
志賀直哉の心境小説👇👇
志賀直哉の小説『流行感冒』の感想 コロナ渦と似た状況で人間の深みを知る
志賀直哉『城の崎にて』他を簡単に解説!あらすじの要約と感想
文学の成功とは裏腹に、内面の葛藤や人間関係の問題に悩まされることも多く、1933年(昭和8年)に自殺。享年35歳で亡くなります。
『河童』のあらすじを簡単に
「これは或る精神病院患者、第二十三号がだれにでもしゃべる話である」
ある男が夏の穂高山に登山中、霧の濃い中で河童を見つけます。
捕まえる寸前に深い闇へ転げ落ち、気がつくとそこは河童の世界…!
男は河童の言葉を覚え、河童の知人ができ、風俗や習慣を知り、生活していきます。
常識が逆のこともある人間世界と河童世界。河童から見て人間はどう見えるのか……
当時の日本社会を風刺した文学です。
人間世界しか知らない私達は、まだまだ視野が狭いのかもしれません。
心に刺さる名言を考察
河童には名言が数多くあり、本当に人間世界が正しいものなのか考えさせられます。
個人的に刺さったものを紹介・考察していきます。
いじめの本質とは何か?
河童が「お前はカエルだ」と言われると……つまり河童であることを否定されると
己はカエルかな?カエルではないかな?
と、毎日考えるうちに死んでしまうそうです。
これは河童の世界では殺人ですが、人間は自殺と言います。
なるほど人格否定の言葉が及ぼした死は殺人…一理ありますね
「君はカエルだ」と言った河童は殺すつもりで言ったんでしょうがね。
という言葉にいじめの本質を考えさせられます。
明らかに悪意があった場合でも、自らが手を下さなければ殺人にならないのはおかしなことではないのか…?
河童世界では「殺人」になるこの事項。
はたしてどちらが正しいのでしょうか?
尚、人間社会では人格否定の言葉を「殺すつもりで」言ったのか、「軽々しく」言ったのか判別が難しい場合があります。
河童世界のように「一括で殺人」となってしまうのはある意味明快で、精神が参っているものからすれば、魅力的な世界に見えるかもしれません。
幸福と平和の悪性付属物
幸福は苦痛を伴い、平和は倦怠を伴うとすれば、ーーー?
息苦しくなるような考察ですが、不覚にも響いてしまいました……。
苦しみがあるからこそ幸せが大きくなり、平和は素敵な事のように聞こえるが退屈を伴うーーー
心当たりあるのでは?
「幸福」「平和」の荒さがし。考えないようにするのが幸せだと思いますが、それを言葉にしてしまうのが作家としての生き物なのでしょう。
だからこそどちらが良い・正しいとも言えない。
幸福と平和、どちらを選ぶかは人それぞれの好みだということを忘れずに、押し付けずにいたいですね。
考察「玉子焼きは恋愛より衛生的」とは?
あすこ(家族団らんの席)にある玉子焼きは何といっても、恋愛などよりも衛生的だからね。
自称超人的恋愛家である河童、トックのセリフです。
家族団らんへのあこがれを「玉子焼きが衛生的」という、一瞬頭にハテナが浮かぶような、ひねくれた表現で表しています。
ここから個人的な考察です。
これは、対して恋愛は溶けた(溶かした)生卵みたいな所がある、と言いたいのではないでしょうか?
例えば真夏のさなか、ひと夏の恋なんてものだったなら、賞味期限は一瞬です。不衛生的です。
その点、玉子焼きは火を通し、手間暇かけて作られ、きちっとした形が作られています。
言い得て妙ですね。この表現力に脱帽です。
河童の「親ガチャ」否定制度
『河童』には生まれてくる赤子に「生まれる意思があるか」と選択させるシーンがあります。
ファンタジーとは言え、衝撃的でした。
この考え方は自分が「生まれてこなければよかった」と考えたことがあるから出てくる言葉でしょう。かなり物悲しいものです。
しかし近年「親ガチャ」が話題になっている中、100年前にもこういった思想があったのがと驚きでした。
親の遺伝子を引き継ぎたくない・こんな家に生まれたくない等、いつの時代も人々は同じようなことを考えていたのかなと思います。
まとめ
芥川龍之介『河童』をまとめると、
- 『河童』は河童世界と人間世界の違いを描き、社会を風刺した作品
- 虐めの本質・幸福と平和の欠点・家庭の衛生的魅力・親ガチャ否定制度などに名言が多数
- 生きづらい世の中に対して自らの考えを伝えたいのではないか?
ということでした。
河童の世界というファンタジーの中に妙なリアリティが埋め込まれている作品でした。
本質を見抜いて書かれた文章にこちらが捕らえられる。芥川の息苦しくなるような物語です。
芥川龍之介の嫌悪から生まれた「河童」。
100年前の社会風刺が現代にまで刺さり、生きることへの”ぼんやりとした不安”に共感を持ってしまいます。
コメント